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初恋の終わる日まで

第3章 血色片恋


此処、どうぞ。上体の着衣を脱いだ腹部を彼女に晒す。内臓をギリギリ避けた血管のある位置に、快楽に震える体を自分自身で抱き締めながら、ヒミちゃんは俺の腹部を刺し貫く。焼けた火箸を突っ込まれたかのような痛みに、内側を「ちうちうと」啜られるだ。
俺がヒミちゃんにキスをしたように、ヒミちゃんは俺の血を啜る。彼女は微笑み、泣きながら、血を欲するのだ。
(愛別ちゃん、血まみれでボロボロで、カァイイね)
可愛いなんて言葉は、醜く出来損ないの俺には一生与えられないものだと思っていたのに。ヒミちゃんはそんな俺の思うがままの姿を「そっかぁ」と受け入れてくれた。
……否、誰よりも深く愛を求める彼女は、その容が僅かばかり他者と違うのみで、俺のような出来損ないの愛に縋る他なかったのだ。
「愛別ちゃん……大丈夫ですか……?」
「それを言うならヒミちゃんも大丈夫か?」
造血剤を飲みつつ、俺はヒミちゃんの頬や腹部を擦る。俺の血壊を受けたが為に、全身くまなく痛みを感じていることだろう。また、疲弊しているのは俺も同じで、最近ではどうやら造血剤も効き目が薄まっているようだった。
「私は大丈夫です……ちょっと痛いけど」
「じゃあ、痛いの治るまで此処でお休みな。俺は隣で作業してるから」
作業、と、彼女が首を傾げる。俺は鞄の中身をテーブルに並べ、彼女にサプライズプレゼントの存在を明かす。
「学校からフェルトを大量にくすねてきたから。ヒミちゃんの大好きな人のマスコット人形、作るよ」
「ステ様!」
「そう、ステ様のマスコット人形」
「ステ様のお人形!ありがとう愛別ちゃん!」
そう言って微笑むヒミちゃんは、恋する女の子の表情をしている。俺と肌を交えている時より、ずっと純粋で無邪気な顔をしている。その事実に胸が痛むのだけど、俺は笑って針と糸と布を持つ。
「ほら、安静にしててな。ステ様の人形は逃げないから」
今はまだ、これしか手に入れられない俺を、許して欲しい。布人形一つで子供のようにはしゃぐ彼女に想う。
いずれ。この命が君に呑み干される日までには。君が君の愛する人に、触れられるだけの世界を作る。
出来損ないにそれが出来るとは到底思えなくとも。愛されぬ俺が正しい愛を君に教えてあげられる筈がなくとも。
ただそれだけを願って、今日の俺は腹から血を流したまま、小さな恋敵をフェルトで作りあげるのだ。
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