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私は君の幼馴染

第5章 君死に給うその日まで


両親を亡くした血染ちゃんは、スタンダールの活動をやめず、けれどもそれ以上人間性を捨てることも無かった。
断罪が終われば、スタンダールは血染ちゃんに戻り、帰って来た。血染ちゃん自身は、スタンダールではない自分を「英雄の理念へ奉仕する凡骨」と卑下していたが。それでも良かった、血染ちゃんが帰ってきてくれるなら。
私はと言えば、念願の医療現場で働く傍ら、出来る限り血染ちゃんとの時間を作った。とはいえ、仕事が仕事だ。時間のすれ違いはあるし、家に帰れない日もあった。二人で会える日は、簡単な料理を作って、血染ちゃんと食事を共にした。おにぎりやホットケーキ、カレーライスならば、血染ちゃんが作っていてくれる日もあった。
いただきますと、ごちそうさまと、一日の簡単な報告。それらを話した後の私達は、会話をするわけでもなく、けれどもじっと隣同士に座っていた。たまに、血染ちゃんの怪我を治して、そのまま二人で肩を寄せ合ったまま眠って。けれども一度として、血染ちゃんが私に間違いを起こしたことはなく、それが嬉しくもあり残念でもあった。
スタンダールが消えたのは、突然だった。血染ちゃんは、血まみれで――――顔の一部を無くして、帰って来た。
「……大丈夫か、白」
私は余程酷い表情、或いは顔色をしていたのだろう。顔の真ん中に大きな穴を開けたまま、血染ちゃんは私を心配する声をかけた。私は自分の目が信じられなくて、けれども確かに血染ちゃんは鼻を欠損していた。
「どう、したの。なんで、血染ちゃん、こんな大怪我、誰に」
ぎこちなく言葉を繋ぐ私に、血染ちゃんはどうしたことか、落ち着いた様子で言うのだ。自分は一点の染だと。
「顔を失った俺は、最早存在しない。仮面を捨てた俺は、行為するだけの断罪概念だ」
ああ、まただ。血染ちゃんの言葉は難し過ぎて、私の頭には半分も届いてはくれない。だというのに、私はそれなりに理解が出来たふりをしなければならないのだ。そうでなければ、そう出来なければ、私に血染ちゃんの隣を生きる権利はない。
「……白。お前は、俺を狂人と厭うか?」
血染ちゃんの声が、僅かに震えている気がした。きっとそれも自惚れなのだろうけれど。
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