第1章 天童覚~誰に抱かれているの?~
サイドテーブルに腕時計をゴトリと音をさせて置く。
時計を置いてネクタイを緩めれば、そこはもう自分の時間の始まり。
時間を気にする必要もないし、緩めたネクタイはプレッシャーからの解放だ。
ホテル備え付けの冷蔵庫から氷を取り出し、グラスに入れると氷がぶつかる甲高い音がする。
そこに注ぐウイスキーの音がこれからの時間をより楽しみなものにしてくれる。グラスの冷たい淵と口づけを交わせば、耳に聞こえるヒールの音。
部屋の前で止まり、“ピッ”カードキーでの解除音がする。
「オカエリ、とでも言おうかナ」
「ただいま・・」
ちょっと困った顔をしていたけれど、彼女の顔を見れば少なくても俺に惚れていることは明白だった。
白っぽいタイトスカートのスーツにシフォン生地のダークグレーのインナー、黒いヒールが仕事で成功した女性だと思わせた。そして左手薬指に光るシンプルなシルバーの指輪が愛する人との平和な家庭がある、所謂勝ち組の女性を意味していた。
俺が腕時計とネクタイを外すのが合図ならば、彼女の合図はシルバーのそれを外す事。お互い気にするものなどなにもない。
一口目のウイスキーを流し込み自分の喉を潤し、二口目のウイスキーで彼女の唇を湿らせながら流し込めば共犯の合図。
絡み合う舌が熱いのはアルコール度数のせいだけではない。
「覚の口から飲むウイスキーは好きなの」
その言葉が嘘ではないと、彼女の全てを吸い取るキスを見ればわかる。タバコも少しは嗜んだけど、元スポーツマンとして少し憚られた。お酒もタバコも得意ではない彼女だけど、俺の口移しのウイスキーだけは飲んで身体を火照らすなんてゾクゾクする。
彼女の入り口全てを俺色に染めている気分になるんだ。
指先をストッキングに這わせて膝下から上に順になぞれば、指先に湿りを感じた。
「言った通り下着つけずに来てくれたんだネ」
中指でストッキングの上から突起を押さえつければ漏れる声を、再び熱い口づけで塞ぐ。
「1枚くらい破けても気にしないヨネ?」
俺が何をしたいか悟った瞳が涙を溜めた。
可愛い合図してくれちゃって、愛おしさを両手に込めてスカートを捲し上げ、膜を破けば花弁から蜜が流れ出した。
涙を流し、蜜を溢れさせるのは君が俺をホシイと思っている証拠。