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忠心 -甲鉄城のカバネリ-

第2章 奥山


「この駅には、あのような事情があったのですね…突然情報が途絶えてしまったのも納得です。
竹中様もお辛いでしょうに…
偶然にもたどり着けたこと、感謝しましょう。」

豊かな自然を見つめながら、菖蒲様はつぶやいた。
遠くで市場を見ている鰍たちが見える。
結局検問は行われなかったみたいだ。
そんな文化などないのか、人を疑うことなど一切ないのであろう、この奥山の民は。

菖蒲様が私のほうに向きなおられる。
久々に見た、心から安らいでるような笑顔だった。

「来栖はこの駅を、この民をどう思いますか?」

「とても穏やかで…竹中家や治田と話す限り、人を疑うことのない、心根の美しい民ばかりなのでしょう。」

率直な感想を述べると、菖蒲様はにこやかにうなずいた。

「来栖がそういうのなら、なおさら安心です。
だから来栖、来栖も少し休んでください。
ここにはカバネも来ないでしょうし、民も優しい方ばかりのようですから。
護衛は大丈夫です。」

そのお声が優しくて、心からいたわってくださっていると伝わってきた。

「菖蒲様、ありがたきお言葉…しかし、万が一をお考えください。菖蒲様がもし怪我でもされたら」

「大丈夫ですよ、来栖。
少しくらい休んでくれないと、かえって心配になります。
無名や生駒も休んでいるのですから。
先程の戦いで疲れたでしょう。
来栖も休んでいいのですよ。」

先程、この駅の民は安心だと言ってしまった手前、うまく言い返せない。
菖蒲様も駆け引きというものをされるようになったのか…。

しかし、実際に先程のカバネとの戦いで酷く疲れていた。
腕も、足も、精神も悲鳴を上げかけている。
少しだけ、ありがたいお言葉に甘えさせていただくことにした。

「…それでは、少しだけ。」

そういうと、菖蒲様はより明るい笑顔を見せられる。
本当にお優しい人だ。

「ええ。ゆっくりしてください。
私はこれから市場に向かおうと思います。そこなら皆もいますから、心配いりません。
あんなに大きな市場です、何があるか楽しみです。」

背中を向け、いつもより速足の菖蒲様を太陽が照らしている。
心底安らいでいられるように見えるお姿に、俺も肩の力が抜けていくのを感じた。

奥山駅に向かう途中に見た、鬱蒼とした緑。
先程駿城からみた、大きな森。

緑の中に包まれて、寝そべってみたい。

…俺も少しは休もうか。
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