第3章 100年に一度の贈りもの【モブリット】
「あ、流れ星!モブリット、今の見た!?
…って、ちょっと待って…。何これ…星がいっぱい降ってくるよ…!」
興奮したイレーネさんの声を聞きつつ、瞳は天空に釘付けになる。
光の筋を描いた流星が、まるで生きているかのように次々と夜空を駆けていくのだ。
「流星群ですよ…本当に…すごいですね…」
「流星群…?」
「ハンジさんによると、この流星群が観測されたのは100年前のことらしいんです。100年に一度しか見られない…ということは、俺たちにもう次の機会はないでしょう?だから、イレーネさんと見たかった」
「……100年に一度しかない贈りものを、私にくれるの?」
隣り合わせの腕が、小さく触れた。
顔を傾けたところには微笑んだ彼女。
「星に願いを掛けると叶うって、本当かな」
「やってみます?」
「新しい職場で上手くやっていけますように。たまにはお肉が食べられますように。痩せますように。肩こりが治りますように」
「欲張りだなぁ」
「調査兵団のみんなが無事でいられますように。
モブリットが…幸せでありますように」
「……」
敵わないな、この人には。
俺が先に願いたかったことを、こんなにもあっさりと。
「俺も一緒です。
イレーネさんがこの先ずっと、幸せでありますように」
心からの願い事がひとつ。
そしてもうひとつは、この夜だけの我儘。
「今だけでいいから、イレーネさんが俺のことを見てくれますように」
すぐ隣にある、小さな左手を握る。
光を含んだ大きな瞳が俺を見つめた。
「イレーネさんが好きです。今までも、これからも」
「……本当に?」
「本当に。俺のこと、見て」
顔を伏せたイレーネさんが、肩に寄り掛かってくる。
まるで、俺の願いを聞き入れてくれたかのように思えた。
「この前、モブリットのこと怒らせちゃったでしょ?」
「あれは怒ったわけじゃなくて…」
「私ね、モブリットに女として見られていないんじゃないかと思ってて」
「え?」
「だって、どんなに近づいても触れても、いつも平然としてるんだもん」
「は…?まさか、スキンシップが過剰だったのって…」
「私のこと見て欲しかったからだよ」
「何ですか、それ…」
てっきり天然でやっているものかと…。
これだから女という生き物は…。