第2章 day1 「有栖川 帝統」
駅前に走れば、ざわざわとした人混みの中に見える緑のコート。
「有栖川さんっ!」
声をかければこちらを振り返る、人懐っこそうな顔。
その顔は私を見た途端にかっと笑い手を広げた。
私はその腕の中におさまるように近づくと、心地よい力でぎゅっと抱きしめられた。
「久しぶりだな、ゆいな。つーか名前で呼べって言ったじゃんか。」
「あ、ごめんなさい…お久しぶりです帝統さん。先月ぶり…?」
「だな!ゆいな、この後予約入ってる?」
「多分大丈夫ですよ。帝統さんのために開けておきました。」
「じゃあロングで入るからメシ食わね?ホテルのルームサービスだけど。」
「帝統さんが大丈夫なら、付き合いますよ。」
上目遣いで帝統さんの顔を覗けば、おうっ!と返事し私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
この人は有栖川帝統さん。
職業ギャンブラーなので、大勝ちすれば月に何回も来てくれるし負け続きだと何ヶ月も来ない。
今回呼んでくれたってことは今日は大勝ちしたんだろう。
本当にわかりやすい人だ。
「あんまり髪の毛ぐしゃぐしゃにしないでください。」
「いいじゃねえか、ほら。」
ずい、と差し出された手を握ると私たちは人混みに向かって歩き始めた。