第22章 カレー騒動
「でも怒ってるとしか思えないんだよ!」
翔は頑なで、ニノは怒ってるんだって言い張って譲らない。
「具体的には?」
そこまで言うからには、何かしら根拠があるんだろうと聞いてみたけど。
「何を言っても最低限のことしか返してくれないし」
「…無視しないで返事してくれるのか」
「寝る時は背中向けてこっちを見てくれなかったし」
「…同じベッドで一緒に寝てくれたんだな」
「朝ご飯はトーストに水だけだったし」
「…朝飯作ってくれたのかよ」
「弁当は絵に描いたような日の丸弁当だったし」
「弁当まで?おいおい、ニノ優しすぎないか?」
聞けば聞くほど、やっぱり怒ってるとは思えない。
「絶対怒ってないだろ、それ」
「でもっ…」
全然笑ってくれないとか、おやすみのキスもおはようのキスもいってらっしゃいのキスもしてくれなかったとか、翔はまだごちゃごちゃ言う。
翔は完全にニノを怒らせてしまったって思い込んでるから、俺が何を言っても聞かない。
こちらとしてはもはやただの惚気を聞かされてる気分なんだけど。
はぁ…と、またため息がこぼれた。
「俺だったら、本気で怒ってたら口もききたくないし、一緒になんて寝たくないし、朝飯も弁当も作らないけど?」
「え?」
「っていうか、同じ空間にいるのすら嫌だな」
「………」
もし俺だったら…という例え話だ。
でも真顔で伝えたら翔は静かになって。
ここにきてようやく目が合った。
「うちが近いんだし、もしニノが本気で怒ってたらサクッと家出して智のところに来るんじゃね?」
家出という単語にサーっと翔が青ざめる。
「でも来てない。夜も一緒に寝てくれて、朝飯も一緒に食ったんだろ?」
「……………確かに」
俺の言葉はやっと翔に届いたみたいだった。
ガチガチだった思い込みを少し崩すことが出来たっぽい。
翔は小さく呟いたきり、そのまま黙り込んだ。
何か考えてるみたいだった。
「ま、実際のところはニノにしか分かんないけどな」
俺には怒ってるとはとても思えない。
せいぜい拗ねてるとかなんじゃね?