第21章 幸せな日々
喜びに打ち震えて何も言葉が出てこないだけだったんだけど、黙り込んだ俺を見てカズは誤解してしまったようだった。
「でも、俺ちゃんと考えて決めたんだよ?翔ちゃんを言い訳にして妥協なんてしてない。翔ちゃんを不安にさせてまで選びたいと思える会社はなかったの。今のところが1番だったの。翔ちゃんのこと抜きに考えてもここに入りたかったんだよ。本当だよ?」
俺のために一生懸命言葉を重ねてくれるカズが愛しくて堪らなかった。
カズの言葉を疑う気持ちはもう微塵もなくて。
俺の罪悪感が完全に消えることはないけれど、カズはカズにとって最良の選択をしたんだと素直に信じられた。
「うん、分かった…ありがとう、カズ…」
手を伸ばしてカズのことを力いっぱい抱き締めると、すぐにカズの手が俺の背中にまわった。
カズは俺の心境の変化を敏感に察知したんだろう。
俺の腕の中で安心したように大きく息を吐くと、くてっと体の力を抜いてからぽつりと呟いた。
「あのね、もうちょっと内緒にしてたこと言うとね。俺、翔ちゃんのお嫁さんになって専業主夫になることもちょっと考えたんだよ。そうしたら翔ちゃんは安心出来るだろうし、喜んでくれるかなって…」
カズが口にしたのは俺の中にずっとあった願望だった。
口に出して伝えたことはなかったはずだけど、カズにはバレバレだったらしい。
さすが、カズは俺のことをよく分かってる。