第21章 幸せな日々
-Sside-
「ん…」
朝、少しづつ意識が浮上していく中、まだ目も開かず頭がぼんやりとした状態で無意識に隣に手を伸ばす。
しかし、そこに求めていたぬくもりはなかった。
「カズ…?」
重たいまぶたを持ち上げてみても、隣で一緒に寝てたはずの愛しい愛しい恋人の姿は既になくて。
寂しい気持ちになりながら、のそのそとベッドの上に体を起こした。
カズと2人無事に就職が決まり、社会人になるタイミングで念願の…心の底から渇望していた悲願と言ってもいい同棲生活をスタートさせた俺たち。
いざ一緒に暮らし始めてみたら、その生活は俺が想像していた何倍も何十倍も幸せに満ち溢れたものだった。
ぶっちゃけ、ちょっとだけ…本当にちょっとだけだけど、不安もあったんだ。
大学時代、同棲を始めたら今まで見えなかった相手の嫌な所が見えて気持ちが一気に醒めてしまった…とか言ってた友人がいてさ。
それまで仲間内でも有名な仲良しカップルだったのに、同棲してから喧嘩が絶えなくなって、結局その後すぐに別れてしまって。
俺とカズはそんなことには絶対ならないって思ったけど、ほんのちょっと不安な気持ちが芽生えたのは事実。
もちろんカズにはこの話はしなかったし、カズと一緒に暮らしたいという想いが揺らぐこともなかった。
それでも消えてくれなかったほんのちょっとの不安を抱えて、色んな意味でドキドキしながらスタートした2人の生活。
結論から言えば、俺のちっぽけな不安も心配も全くの杞憂だった。
だって、今まで見えなかった部分が見えるって、俺にとっては嬉しいことでしかなくて。
知らなかったカズを知るたびにますます好きな気持ちが膨らんでいくんだ。
どんな新しい一面を見ても嫌だと思うことなんてなく。
むしろこれだけ付き合っててもまだ知らないことがあったのかと新鮮に驚いて、より深くカズを知れたことに喜びを感じた。