第20章 卒業式
「思い出めぐりか…いいね!楽しそう!」
笑顔で快諾してくれた翔ちゃんと相談して、上から降りていこうってことになって。
まっすぐ向かったのは屋上。
俺はなんの迷いもなかったんだけど。
「え?屋上?立ち入り禁止でしょ?」
「え…?」
戸惑う声を上げる翔ちゃんに、はて…と首を傾げて。
そういえば翔ちゃんとは屋上に行ったことがなかったことに気がついた。
そっか、ここは翔ちゃんと智と距離を取って一人ぼっちだった時に来てた場所だもんね…
付き合い始めてからも、高いところが苦手な翔ちゃんとわざわざ屋上に行くことはなかった。
でも、今日は最後の日だから。
翔ちゃんと一緒に行きたい。
「ここね、鍵が壊れてて入れるんだよ」
「えぇっ!?」
今日も簡単に開いたドア。
翔ちゃんは目をまん丸にして驚いてて。
「なんでカズは知ってるの?」
不思議そうに聞かれたけど。
「ん、ちょっとね…一時期よく来てたから…」
1人で逃げるようにここに来ていたあの時のことは、思い出すと今でも胸が苦しくなるから。
曖昧に言葉を濁しちゃったけど、翔ちゃんは何かを察したのかそれ以上追求したりはしなかった。
屋上に足を踏み入れると、目の前には雲一つない青空。
「見て、翔ちゃん!空がきれいだよ!」
今日は天気が良いから青空が綺麗で。
誰も居なくなった校庭の桜も綺麗に見えて。
「上から見る桜もきれい!」
やっぱりここは開放的ですごく気持ちがいい。
「うぅ…」
高いところが苦手な翔ちゃんは顔を引きつらせて、あんまり下を見ようとはしないけど。
屋上で隣に翔ちゃんがいることがすごく嬉しい。
ここはネガティブな気持ちで来ることが多い場所だったけど。
今日、涙目でちょっと情けない顔になっちゃってる翔ちゃんと手を繋いで綺麗な景色を見て。
新しい思い出で上書きすることができた。