第20章 卒業式
校長室でゆったりゆったり過ごさせてもらって。
「だいぶ静かになったね」
「本当だ…」
校内がいつの間にか静かになっていたことに、最初に気づいたのは校長先生だった。
「校長先生、ありがとうございました」
「…ありがとうございましたっ」
「いやいや、人気者は最後まで大変だね」
翔ちゃんと頭を下げたら、校長先生が笑いながらそんなことを言うから、思わず苦笑してしまう。
色々あった高校生活だったけど、まさか卒業式までこんなことになるなんて思ってなかったよね。
俺は最後くらいしっとり終わりたかったんだけどな。
「じゃあ、俺たちもそろそろ失礼して帰ろうか」
「うん…」
翔ちゃんがそう言いながら立ち上がったから、俺も一緒に立ち上がる。
そうだよね。みんなが諦めて帰ってくれたんなら俺たちも帰らなきゃだよね。
校長先生とのお喋りは楽しいけど、きっと先生の仕事を邪魔しちゃってるし。
……でも、本当にもう大丈夫なのかな?
安全な場所から外に出るのはちょっとこわい。
ゆっくり休ませてもらって体力は回復したけど、さっき感じた恐怖心はまだまだ消えてないから。
みんな息を潜めてるだけで、扉を開けるなりまた取り囲まれたらどうしよう…なんて。
いやな想像をしちゃったら、不安でそれ以上足が動かなくなって。
無意識に翔ちゃんのブレザーの裾をぎゅっと握りしめてしまう。
翔ちゃんはものすごく心配そうな顔で俺を見てるけど、校長先生の前だからかいつもみたいに抱きしめてはくれなくて。
立ち上がったものの2人して動けないでいたら、そんな俺たちを見た校長先生がパッと立ち上がって。
「誰もいないよ、本当にもう大丈夫そうだ」
わざわざ廊下に出て確認してから、俺たちにも見えるように扉を大きく開けてくれた。