第20章 卒業式
-Nside-
「ん〜!おいしいっ!」
「ふふ、良かったね。俺のも食べていいよ」
一口かじったお菓子が美味しくて。
思わず大きな声が出た俺に、翔ちゃんがニコニコしながら自分の分を差し出してきた。
「んーん、それは翔ちゃんが食べて」
「美味しかったんでしょ?」
「美味しいから翔ちゃんにも食べてほしいの!」
翔ちゃんの優しさは嬉しいけど、1人で食べるより一緒に食べて美味しさを分かち合う方がいい。
でもこういう時なかなか引いてくれないのが翔ちゃんで。
「俺は美味しそうに食べるカズが見たいんだけど…」
「だめ!翔ちゃんが食べて!」
「でも…」
強引に渡されたお菓子を翔ちゃんに返すけど、翔ちゃんは全然食べようとしない。
そしたら、そんな俺たちのやり取りを向かいでお茶を飲みながら見ていた校長先生が笑い出して。
「ははっ、まだあるから2人ともたくさん食べなさい」
同じお菓子がたくさん入った箱を出してくれた。
「校長先生、ありがと!」
「どういたしまして」
遠慮なく手を伸ばすと、翔ちゃんも先生にお礼を言って、やっと自分の分のお菓子に口をつけた。
ここは校長室で。
翔ちゃんと校長先生と3人でお茶を飲みながらお喋りしてたんだけど。
「だいぶ静かになったね」
ふと、校長先生が独り言みたいに呟いた。
それを聞いて俺も耳を澄ましてみると、確かにさっきまでバカみたいにうるかったのに、今はすごく静かになってる。
「本当だ…」
自分の耳で確認したら、ホッと安心して体から力が抜けた。
そんな俺を見て、隣に座ってた翔ちゃんが労わるように頭を撫でてくれる。
それで俺はますます気が抜けちゃったんだけど。
「校長先生、ありがとうございました」
「…ありがとうございましたっ」
翔ちゃんが姿勢を正して先生に向かって深々と頭を下げたから、俺も慌ててペコリと頭を下げた。
校長先生はそんな俺たちを微笑ましそうに見ていたけど
「いやいや、人気者は最後まで大変だね」
笑いながらそんなことを言うから、思わず翔ちゃんと顔を見合わせて苦笑してしまった。