第5章 恋敵
言い返しても楽しいことには絶対ならないから、最近はあまり相手にしないようにしてる。
無視してれば、張り合いがないのか菊池も黙るから。
今日もそうやってやり過ごそうとしてたら
「え?お前姫になってチヤホヤされたいの?」
黙ってる俺の代わりじゃないんだろうけど、隣で聞いてた増田が突っ込んだ。
「なっ…ちげーよ!!」
菊池はすぐに怒って否定したけど。
「ま、お前は姫って柄じゃねーか」
あっさり流されると少しだけ悲しそうな顔をした。
増田の言う通り、菊池は姫と言うよりは王子タイプだろう。
背は高いし顔もいいし。
黙ってればイケメンだもん。
あ!もちろん翔ちゃんには全然敵わないけどね!
菊池のお姫さまになりたい子はたくさんいるんじゃないかと思う。
それでも、菊池は翔ちゃんのお姫さまになりたいんだな…
気持ちは分かるよ…
分かるけど…
でも、ごめんね。
こればっかりは、どうしたって譲れないんだ。
「羨ましいなら羨ましいって素直に言えばいいのに」
「それが言えるくらいなら、こんな陰でコソコソ先輩いびりなんてしないだろ。くだらないことしてないで、さっさと仕事しろ」
増田に呆れられ、上田に冷たくあしらわれて、菊池は傷ついたような顔で黙り込んだ。
こういうのやめてほしい。
自分からケンカ売っておいて、傷ついたり悲しそうな顔したりすんの。
嫌なこと言うなら嫌なやつに徹してよ。
悪いことはしてないはずなのに、こっちが申し訳ない気持ちになるじゃん。
俺は誰も傷つけたくなんてないんだよ。
ただ翔ちゃんのことが好きなだけなのに…
でも…譲ることなんて絶対出来ないなら、誰も傷つけたくないって思うことすら俺のエゴでしかないのかな…