第1章 西谷夕
セミの鳴き声が響き渡る中、さほど背丈は変わらない男の子と歩いている。
同じクラスで同じ部活の西谷夕は正直言って苦手な部類に入る男の子だ。合宿の最中、救急箱のバンソコウがないと気付き、コンビニまで買いに行くのに付いて来てくれたのは助かっているけれど。田舎なだけあって、夜道はやっぱり暗いし一応女の子だからちょっと怖い。
「負けたとはいえ、御免ね西谷君」
出かけようとした私に
「女子一人は危ない。俺が一緒に行く」
と言ってくれた澤村先輩を止めて
「大地さんが行くことないっすよ!2年でじゃんけんだ」
といって始めたじゃんけん。結局言い出しっぺの西谷君が負けたのだ。
「負けたっつーか、勝ったっていうか」
言葉の意味が分からずにいると
「ほら、あれだ!コンビニでガリガリ君食えるから」
大きな声が夜道に響いた。
「好きだもんね、ガリガリ君」
「おう!」
セミの鳴き声をBGMに無言で歩く道のりは長く、互いの距離を開けた。ガリガリ君の話で終わってしまったのだ。
同じクラスで同じバレー部・・過ごす時間は多くて普通ならお互いを知り尽くしているはずが、彼の事は明るくウルサイ男の子、バレーセンスは凄くて烏野の守護神、でも勉強は全くダメ・・以外知らない。
これだけでも十分かもしれないけれど、過ごしている時間を考慮すると、知らない方だとは思う。彼の見た目というのが正しいのか、外面だけ知っていて中身を知らない、星みたいに遠くから見ていて輝いているのは知っているけれど、近くでは見ていないし距離も縮められない。
だからだろうか、西谷夕が苦手だなと思うのは。
「お前っていつも無理してるよな」
苦手な相手と歩くならば、とことん無言と自然のBGMを楽しもうと耳を澄ました途端に発せられた言葉。
「いつ?なんで?」
「ほら、学級委員もしてテストの成績だって進学クラスに負けない位いいだろ。真面目だしよ・・。でも無理しているように見えんだよ、時々だけどな。あと人との距離を取っているっていうか・・」
西谷君は真っすぐな性格なのは知っている。その真っすぐの対象が他人に向けられた時に、時としてそれは自己防衛の盾を崩される恐怖となる。
「そうかな?普通じゃない?」