第5章 東峰旭
「君と一緒に過ごしたいかな」
俯く彼女を見れば答えなんて分かっている、いや聞かなくてもわかるじゃないか元旦は家族で過ごす事くらい。
“そろそろさ、お前も幸せになっていいべ?”
菅の声と大地の視線が頭をよぎった。
「明日さ、行かなくてもいいんじゃない?」
自分の言葉にびっくりするが、発した言葉は取り消せない。一度欲を口に出せば次々と吐き出る汚い自分の言葉。
「旦那はこれから何度だって祝ってくれるだろ?1日位いなくてもいいだろ?仕事が終わらないとかさ、そういって子供と旦那だけ旅行すればいいじゃないか・・」
俺だって幸せになりたい、君と一緒に。
「旭・・どうしたの?」
大きな瞳を見開き更に大きくなった目を直視できずに、足元に視線を移すと赤いマニュキュアが目に入る。
“忙しくて細部までオシャレできなくてゴメン!”
謝る君を思い出し、頭に上った血が引いていくのを感じた。
「ごめんな、困らせて」
「こっちがゴメンだよ」
悲し気な目で俺の頬を撫でた。
「楽しんできてよ」
困らせたよな・・楽しみな旅行前日に。
彼女の顔を見ないで済むよう抱きしめた。
赤いルージュは、きっと俺のためじゃない。
繋がっていると信じていた糸が、切れた音がした。
ー終わりー