第3章 赤葦、木兎の夏②
どこに行ったのだろうと思っていた木兎さんはヨーヨーすくいに格闘していた。
「赤葦!ヨーヨー取ってくれよ!」
いつも100%の力で物事にあたる木兎さんに、繊細なヨーヨーすくいは難題だったようだ。
ティッシュの先に付いた金具部分だけを上手く水につければいいのに、それが出来ずに全体を水に浸けるのだ。
最終的には俺に泣きつくのは分かっていたんだけどね。
軽く3個ほどヨーヨーをすくうと
「赤葦すげぇ!俺、黒と白のヨーヨーもらいっ!」
チームカラーに近いヨーヨーを持って楽し気に遊び素直に喜びを爆発させる。この素直さが皆から愛される理由なんだろう。
「俺らベビーカステラ買うから先に花火見るとこ行ってて」
猿杙さん達と他のマネージャーがそういえば、
「俺は射的で3DSが欲しい!おい、木兎勝負するぞ!後で行くわ」
木葉さんと木兎さんが射的に向かって一直線に進んでいく。
彼女が好きなピンクと黄色のヨーヨーを差し出せば
「ありがとう、京治」
笑顔で受け取る。これでさっきの大声はチャラだ。
伸びるゴムの音、ヨーヨーを弾く音と聞こえる水音が無言の2人にはありがたかった。
「さっきの怒ったの?」
ヨーヨーを俺にぶつけながら聞いてくる。腕を振りほどいたのはどうやらチャラになってなかったらしい。
「別に。ただ、木兎さんに悪いだろ」
「うん、ごめん」
触れ合う裾に2人の距離が近いと感じたのか、ヨーヨーで遊ぶためか傍から見て他人同士のような距離感だ。
「小学校のころさ・・。二人で親から離れて山の上で花火みたよね」
「あったな。その後しこたま怒られたよな」
距離をヨーヨーで縮めたいのか、ずっと俺にぶつけてくる。
「そうそう、警察まで出て探してたからね」
前髪をかき分けながら懐かしそうに話す彼女の横顔は、リップがとれてあの頃と同じ顔になったようで何故か嬉しかった。
「花火終わったあとにさ、いきなり不安になった私に京治が言ったの覚えてる?」
「さぁな」
彼女に申し訳なさを感じつつも誤魔化した。本当は覚えていても、今言う言葉ではない気がして忘れたふりをした。
「いつも京治が横にいてくれたね」
「今は木兎さんがいるだろ」
言葉に棘がでないように、細心の注意を払いながら出す先輩の名前は口から重く出た。