第3章 最初のお仕事
おじいちゃんから教わっていたのは、なにも剣術だけじゃない。
あくまでも身を守るための・・・っていう理由から、教わったこともある。
『女子供を甘く見るなと、ちゃんと伝えたのにホント、馬鹿な人。くだらない遊びは終わりにしましょうか』
売られたケンカは買いますよ?と笑って見せれば、更に怒りを増した様子を丸出しにして刀を大きく構える。
その刀、よく斬れるのは切っ先だけだって事も忘れてるんだろうか?
ま、いいけど。
「お前ごとき女は・・・こうしてくれるわ!」
『甘いっ!!』
「ぐっ・・・!!!」
見るからに大振りすぎる太刀筋を見切り、屈んで懐へと入り込み鳩尾目掛けて肘鉄を思い切り入れ、直後、握りしめた拳を下から突き上げる。
今は自分も腕に傷を負っているから、その反動で自分にも違う痛みが走るけど耐えられる痛みでもあるから構わない。
痛いのは・・・痛いけどね!
前屈みになって立ち尽くす相手から数歩下がり、軽く助走をつけて、そして。
『丸腰同然の女子供に負けたとなれば、もう二度と偉そうな顔は出来ませんよ!』
声を荒らげながら渾身の力を込めて・・・私は片足を軸にして、滅多なことではお見舞い出来ない急所へと足を蹴り上げた。
「ぐ、ァァァァァァァァァァッ!」
声にもならない呻き声を響かせながら、膝を折り、その場へと蹲る姿を一瞥しながら、少しばかりついた土汚れをパンッと払った。
『念の為もう一度確認しておきますけど、今後一切こういった戯れはおやめ下さいね?もし、約束を破ったら・・・その時は・・・』
どれだけ痛かったのだろうか蹴り上げた場所を押さえ込みながら涙目にさえなっている顔は、私を見て何度も何度もコクコクと頷く。
『ならば、よし!・・・さぁって、汚れまみれだし傷は痛いし・・・長谷部さん、一期一振さん・・・帰りま・・・えっと、なん、でしょう?』
あー、疲れたと笑いながら振り返れば、明らかに引き攣った顔を見せる長谷部さんがいて。
というより、その向こうに見える他の皆さんも微妙な表情を浮かべていた。
ただひとり、和泉守さんだけはゲラゲラとお腹を抱える程の勢いで笑っていたけれど。
私・・・なんかヤバい事でも、した?かな?
いや、したかもね・・・と蹲る人を振り返っては小さく息を吐いて、まだじわりと流れ続ける傷を押さえて自陣へと歩き出した。