第4章 君に捧げる恋歌(今川義元)
そんな時だった、
義元の耳にどこからともなく、
何かが聞こえてきた。
義元「ん?」
義元がふとあたりを見渡す。
義元はそれが聞こえてきた場所を探るように、
耳を澄ましながらあたりを歩く。
義元が見つけたのは、一人の少女だった。
少女は義元に気づかず、何かを口ずさんでいる。
いや何か歌を奏でている、
といった方がいいのだろうか。
聞いたことはないその歌だが、
義元には不思議と心地よく感じていた。
だがそれ以上に義元の心を奪ったものは、
歌を奏でる少女自身の姿であった。
美しく儚く今にも消えてしまいそうな、
義元にそんなことを思わせた。
やがて歌を奏で終わったのか、
あるいは義元に気づいたのか、
少女は歌うことをやめた。
ああもっと聞きたかったのに、
そんなことを義元は思う。
少女は義元に驚いた顔を見せると、
悲し気な顔をしてその場から去っていった。
義元はそんな彼女に、
声をかけることすらできなかったのであった。