第4章 はじまりの音と雨の予感
「…………何、してるの」
あんなにどしゃ降りだった雨が嘘のように。
空にかかる虹を眺めながら帰った夕方。
いつかと同じ光景が、そこにあった。
「雨宿り」
いつかと同じ言葉。
言葉は同じなのに、なんでかな。
すっごく、穏やかだ。
「なんでもするから。拾ってかない?」
「『例えば?』」
しゃがみこむ彼の前へとしゃがみこんで。
そう、問えば。
「ご飯、作るよ?」
「作れないじゃん」
「掃除洗濯」
「余計汚すのに?」
詐欺じゃん、ほんと。
『なんでも』どころか、何にも出来ないし。
まぁ仕方ないか。
お坊っちゃん、だしねこの人。
「なんにも、しなくていいから……」
だから。
「そばにいてよ、湊」
「………いいよ」
『いいよ』
簡単な、答え。
うん。
恋愛なんて、すごく簡単に始まるんだ。
難しいことなんて考えてたら、始まらない。
「降るよ、雨」
「うん」
見上げた空は、さっきまでのどしゃ降りのおかげで虹が空全体を覆い、キラキラ輝いてた。
聞こえたのは、どこからか鳴り響く鐘の音。
ついでに。
もう、ひとつ。
恋の、予感。
はじまりの音が、すぐ近くで聞こえた気が、したんだ。