第3章 いらない、朝
言われるままにぎゅ、と目を閉じれば。
羽みたいなキスが、唇に降ってきて。
「3」
指先が、唇をなぞっていく。
「2」
ちゅ、と。
首筋に鈍い痛みを感じて。
湊の柔らかい髪の毛が、肌を刺激する。
「1」
パタン
て。
玄関の開く音が耳に響いて。
目をゆっくりと開けば。
そこにはもう、湊の姿はどこにもなかった。
ぼやける視界の中、キッチンに置かれた缶ビールがひとつ、寂しくその存在を主張していた。
「ばかぁ、一緒に飲もう、って、言ったんだよ」
冷蔵庫を背に、ずるずると崩れ落ちる体を支えてくれる人はもういない。
『好き』
返事も、してないのに。
ばかばかばか。
あたしは。
あたしは、『湊がいないと』駄目なんだよ。
駄目、なのに。