第1章 はじまりの夜
「お疲れさまー」
「お疲れさまです」
新入社員が口々に挨拶を交わしながら笑顔で退社してから3時間。
そろそろお腹の虫たちも限界を迎えた頃、やっと本日分の修正やら打ち込みやらが終わりを告げた。
「……今日も最後か」
まわりをぐるっと見渡せば。
いつの間にかまわりには誰もいなくて。
小さくため息を吐き出しながらひとりごちた。
29歳。
がむしゃらに仕事に没頭する事数年、女だからってばかにされたくなくて、それこそ人の何倍も頑張って仕事してきた。
デートだ旅行だと、楽しそうに話す同期を視界の隅におさめながら、羨ましいと思う反面、それでも仕事に明け暮れた。
結婚を意識したことももちろんあったけど、つい先月、その彼からは別れを告げられたばかりだ。
傍らには年下の、ふんわりした女の子。
人生そんなもん。
結局、若くてかわいい子が優遇されるのだ。
「…………なにしてんの」
コンビニで適当に買ってきたお弁当と、ビール。
海外ドラマを見ながらビールを飲むのが、最近楽しみになってきている自分に疑問は感じるけど。
まぁ楽しいから仕方ない。
そう、思いながらいつもどーりに帰路についた、マンション前。
何故だか不自然な段ボールへと座り込みながら、そこには見慣れない男の子。
「雨宿り」
「……ゴミ捨て場で?」
「ちょうどいい段ボールあったから」
「……そう」