第1章 はじまりの夜
「酷い、俺ちゃんと待ってたのに。1日中なんも食べないで待ってたのに。」
「………」
バシン、と払いのけたその動作に。
驚いたように揺れた瞳はあたしの気のせいかしら?
ずいぶんといきなり被害者ぶるの、上手じゃないの。
「ご飯作るんじゃなかったの?」
「材料ないもん」
「掃除は?洗濯は?」
「掃除機場所知んないし洗濯機使い方知らない」
「はぁ?」
話が違うじゃないの、ずいぶんと。
「でもちゃんと、慰めたでしょ?」
「………っ」
「今日もちゃんと、慰めてあげるよ?」
「いらない」
「えぇー」
「どうかしてたの、ご飯作るから食べたら帰って!」
「俺、満足しなかった?だめだった?」
「………そうね」
「あんなにイってたのに?」
「ば……っ、かっ!うるさい!」
「なぎのが声おっきいよ?」
「もう、いいから出てって!」
「なぎー」
う。
なんなの、この瞳。
無表情なくせして、捨て犬みたいな目、しちゃって。
「俺、いくとこない」
「………」
「なぎー」
そうだ。
昨日もこれだ。
この瞳にやられたんだ。
おっきな瞳、うるうるさせちゃって。
「…………寝室立ち入り禁止」
「えー」
「き、ん、し」
「はーい」
はぁ。
だめだ。
1度餌付けしちゃうとついてくるのよね、動物って。
小さい頃から知ってたのに。
学習能力、なさすぎだわ。