第3章 ひこうしきかいだん
梅雨時季は仕方がないと分かっていても、こう毎日降られたんじゃ、行商に出られもしない。
「はぁ~あ。こう毎日毎日湿っぽいと、気分まで湿っぽくなってくるな」
「幸が泣き言なんて珍しいね」
「…眼鏡、曇ってんぞ」
おっと、とかなんとか言いながら、外した眼鏡を袖の端で磨き始める。佐助の目の悪さは知ってるが、ある程度磨いてはこれでもかと顔に近づけて、細目で確認する辺り、よっぽどだろう。
「よし」
顔を上げながら眼鏡をかけて、キョロキョロと部屋を見渡す。終いには俺をみて、ぐっと親指を立てた。
ぐっじょぶ、じゃねーだろ。
「良く見える」
「だろーな。てか、そんなに曇ってて気付かなかったのかよ」
「見えづらいのは、かすみ目だと思ったから」
「あーそーかよ」