【B-PROJECT】あなたの瞳に永遠を誓います......
第30章 近くて遠い
「そうだな。」
「ご、剛士くん!?」
「とにかく、行くなら早い方がいいだろ。」
グイッと細い腕を取って歩き出した。
「みなさん、お疲れさまでした。」
俺に引きずられながら頭を下げたなまえの姿が視界の端に映った。
「お前は本当に食うか寝るか喋るかだな。」
「ええっ!」
床に転がっているなまえに話しかける。
「床から音の振動が伝わるんですよね......。音と一体になっている感じがするんです。」
「お前は、ド天然だよな。」
コイツからは、時々すごい感性が飛び出してくることがある。
「剛士くんのギターの音、歌声を近くに感じるんですよ......。床は冷たいし......はぁ、落ち着く......。」
「なんだよ、ソレ。」
「元々、歌はすごく上手ですけど一緒に練習しだして更にすごくなりました。私は何もしていないので100%剛士くんの力です。」
「はっ?」
「へっ?」
「違うだろ。一緒に歌ってくれるだけで勉強になる。初めて聴いた曲でも俺が歌いやすいキーを見つけて、それに合わせて正確に歌ってくれてる。だから、ズレねぇし。
なんか表現力とか、理屈じゃねぇんだよな......。人の心を動かす力があるんだよ。」
「よく分かりませんが、勿体ないお言葉だということは分かります。ありがとうございます。」
「よく分かってねぇのかよ。」
目が合うと、ニカッと笑われる。
「剛士くん、負けないでくださいね。『アイドルだから。』って見方が世間では少なからずあるでしょう。
よく知らない人はルックスだけだと決め込んでる。格好良さも魅力ですが、剛士くんの歌はそこら辺の歌手になんて負けません!」
増長や他の奴はコイツのことを「可愛い、可愛い。」と呆れるくらい愛でる。
確かに、表面的には柔和。人の痛みや変化に敏感なところがある。涙脆くて不安定で危うい。
まぁ、一見女らしいな。
その反面、負けず嫌いで頑固だ。
どれも本当のコイツなんだと思う。
基本的には自分の気持ちに正直だけど、助けてほしい時に「助けて。」とは言わないだろう。
なまえの優しさは、いつか自分の首を絞める。
大切な人の為なら自分の犠牲を厭わない、そういう危うさを感じる時があった。