第39章 時をかける
「まさか…こんな、っタイミングで言われるなん、て…」
「俺もついさっきまで言うつもりはなかったからな。」
「えっ?」
「こういうのは勢いが大事だとうるせぇ部下が力説してたのを思い出した。……だが一緒になる気はちゃんと前からあった。再会するずっと前から、次はお前が死ぬまで絶対に傍にいてやると思ってた。」
せっかく拭いてもらったのに、また涙が溢れてしまう。
泣かせるようなことを言うリヴァイさんが悪いんだから、と心の中で言い訳して。
「ふっ…うっ……リヴァ、さん…すき、すきです」
口を開けば感情がダダ漏れだ。一向にカッコがつかない。
けれどエマは構わず伝えた。何度も何度も。
涙混じりに想いをぶつけるエマに、リヴァイは優しい眼差しを送る。
たぶんいくら拭っても今はキリがないだろう。
リヴァイは濡れたままの頬を両手で包み込み、そっと引き寄せ唇を重ねた。
波の音が際立って聞こえる。
今この世に息づいているのは、この海と自分達以外いないんじゃないかと錯覚してしまうくらい、他の生命の音はしない。
海と自分たちの息遣いだけ。その妙な静けさがとても心地良い。
重なった唇の優しさを、温かさを感じながら、二人でこの大海原に溶けてしまってもいいと思うくらいに。
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リヴァイが昔の記憶を思い出したのは、物心ついて初めて海を見た時だった。
一気に思い出したわけではない。少しずつ記憶は拡がっていった。
まだ10歳にも満たない少年が最初に思い出したのは、数人で馬に乗り見に行った〝壁の外の海〟。
その時 記憶の中の彼が、あの地平線を越えて人を探しに行きたいと言っていたそうだ。
少年は彼女の名前を聞いても最初はピンとこなかった。
けれどその日を境に何度も夢で彼——昔の自分と会い、その度に同じ彼女の話を聞かされた。
そうして夢の中で自分と会話を繰り返しているうちに、ある日突然思い出したのだという。
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長い長い、触れるだけのキス。
唇は音もなく離れて、見つめ合った。
「リヴァイさん」
涙も震えももう止んでいた。
「私を…探してくれてありがとう。」
エマは言った。泣き腫らした顔を緩ませ、幸せそうに。