第38章 “またね” ※
エマは楽しかった。
自分のために開かれたこの宴を、本当に心の底から楽しめていた。
周りの皆がいつもと変わらぬ態度で接してくれたのももちろん大きいけれど、自分の心持ちも大きい。エマだってハンジ達と同じで、しんみりなどしたくなかった。
自分から色んな人と話をした。
世間話から愚痴や冗談、どんなささいな話題でも、同じテーブルを囲い大好きな人たちと話せるというだけで、その一瞬一瞬が特別なものだと、そう思える。
「いい顔をしてる。やはり君には笑顔が一番似合うな。」
「団長のおかげです。憲兵に囚われた時、団長がいてくれなかったら私……! あの時は本当にご迷惑を」
「エマ。その件に関してはお互い謝らない約束だっただろう?」
エルヴィンの言葉にハッとしてエマは苦笑いする。すぐに謝る悪い癖が出てしまった。
エルヴィンはそんなエマに“相変わらずだな”と目を細め、その掌をエマの頭上に置いた。
「もしもあの時、君の笑顔を守れず永遠に失ってしまっていたら、私はきっと仲間に殺されていただろうな。」
「え?」
エマにだけ聞こえるような声量で、自嘲するようにエルヴィンは呟く。頭に手を置いたままエマを覗き込み、瞳だけを一瞬正面へ動かした。
その視線の先には半分睨むようにこちらを見やるリヴァイの姿が。
“俺の女に気安く触るな”
という心の声が聞こえてきそうな顔を見て、エルヴィンは眉を顰め両腕を軽くあげて降参のポーズをとった。
三人のうちエマだけが、無言の二人のやり取りを理解できずに疑問符を浮かべたまま。
直後、ふと部屋の照度が一気に落ちる。
「え?何?!」
突如視界は薄暗さに包まれた。オイルランプの灯りは気がつくと最小まで絞り込まれている。
しかししんと静まり返った室内で、動揺するのはエマ一人のみだ。
「あの!皆さん大丈夫ですか?!」
ガチャ—
エマが扉の開閉音を聞いたのが先か、扉の隙間から覗いた揺れる灯火を見たのが先か、どちらかはよく分からなかったけれど。
「エマ!誕生日おめでとう!!」
響いた朗らかな声はよく知ったペトラのもの。そして彼女の手で運ばれてきたのは、数本のロウソクが灯った巨大なタルトだった。