第37章 帰還、残された時間
「待っていてくれるか?」
強い力で握られた手を、エマは残った掌で包んだ。そっと、優しく。
自然と細まった目の目尻にじわ、と涙が滲んだのが分かった。
「待ってます。何年、何十年…何百年かかっても、ずっと待ってる。」
この命が尽きても、
風に揺らめく花になっても、
空を羽ばたく鳥になっても、
花を揺らす風になっても、
大地を優しく照らす月になっても。
“運命”なんてあまり信じないタチだったけれど。今はそれだけが拠り所で、希望で。
都合のいい時に都合良く運命を信じるだなんて言ってたら、神様に怒られるかもしれない。
でも、ごめんなさい。
こうでもしなきゃ笑えない私を、どうか許してください。
「次に会った時は、たったの数ヶ月じゃなくて、一生、死ぬまで一緒がいいな。」
「死んだあともまた共に命を繰り返せばいい。隣にいるのが飽き飽きするほど…お前が嫌だと言ってもずっとそばにいてやる。」
「その言葉、そっくりそのまま返してもいいですか?案外、リヴァイさんの方がもうよせ、って言うかも。」
「ならどっちが先に言い出すか勝負だな。」
「ふふふ、そうですね」
ふと、視界の端に眩しさを感じ、二人は同時に首を動かした。
東の空に浮かび上がっていたのは、夜闇に咲く光の花。
彼方で音もなく咲く小さな花々は、次々と浮かんでは深い藍色の空へ溶けて混ざり合う。
「わぁ…花火だ。きれい」
「祭でもやってんのか」
「きっとそうでしょうね。楽しそう」
はしゃぐ子供、酒を飲み交わす大人、寄り添う恋人の姿が目に浮かぶ。
きっと、あの花火の下でたくさんの笑顔が夜空の大輪と共に咲き乱れているのだろう。
「こんなところで見られるなんてラッキーですね。」
チラリと見やれば、リヴァイは“悪くねぇな”と言いながらその小さくとも存在感を放つ光を虹彩に映していて、エマはふわりと微笑んだ。
そして無意識に願う。
これからも、どうかリヴァイさんにひとつでもたくさんの幸せが訪れますように。
二人は手を繋いだまま、浮かんでは消える輝きを見つめた。