第6章 秘書のお仕事
リヴァイにだって、女と一緒に過ごしたことくらいはある。
とはいえ、勝手に向こうから寄ってきて、悪くねぇなと思った女と何となく一緒にいただけだなのだが。
それに、寄ってくる女は面倒くさいやつばかりだった。
自分から言い寄ってきておいて、好きと言って欲しいだの行動で示して欲しいだの身勝手な欲求ばかり。
いい加減そんな女にうんざりすると、そのうち身体だけの関係と割り切って付き合うようになっていった。
今思えば。
調査兵団の兵士という立場ゆえ、明日の命も保証されていない身では、積極的に誰かを愛することは難しかったのかもしれない。
なぜなら自分がのめり込むほど、失った時のショックの大きさが計り知れないから。
調査兵団に入って初めての壁外調査で大切な友人を失くした時、その辛さを嫌という程思い知ったから。
そんな理由もあって、自分から積極的に恋をした経験がないリヴァイにとっては、エマに対して思うこの気持ちが何なのかがはっきり分からなかったのだ。
いや…薄々勘づいてはいたが、気付こうとしなかっただけなのかもしれない。
“リヴァイ兵長!”
不意に名前を呼ぶエマの姿が脳内を過ぎった。
艶のある漆黒の髪、
長い睫毛が被さる大きな瞳、
小さく謙虚な唇、
少しだけ少女のあどけなさを残し眩しい笑顔
「ハッ、馬鹿か。」
その姿を思い浮かべていると、みるみるうちに鼓動を加速させた心臓を確かに感じ、リヴァイはそんな自分を嘲笑うかのように呟いた。