第37章 帰還、残された時間
〝限られた時間〟
いつの時代も、どんな世界でも。
人は生まれた瞬間から、終焉へのタイムリミットへ向かい生きていく。
けれどそれに気付き、意識して過ごす人はどれほどいるのだろうか。
ほとんどが、当たり前にやってくる毎日をなんの疑いもなく受け入れて、長い短いはあれど、誰の人生も必ず平等に終わりがくることなんてわざわざ考えないだろう。
だがもし、それに気がついた時。
自分に差し迫ったタイムリミットに気づいた時、何を思い、どう行動するのだろうか。
カチャ、と匙と食器が当たる音が静かな部屋に響く。
窓から見える空は雲ひとつない快晴。
でもこういう時は、外へ出てみたら案外どこかにポツリと雲が浮かんでいた、なんてことは良くある。今日だってもしかしたらそうかもしれない。
けれど、それを確かめることはできない。
陽はてっぺんを少し過ぎた頃。
静かすぎるこことは裏腹に、きっと外の演習場では今日も過酷な訓練が行われているのだろう。
エマは食器の乗ったトレーを入り口付近の物置に置き、椅子に座り直すとテーブルの縁へ避けていた書類の束を寄せた。
ペンを持った直後にガチャリと開く扉。
顔を上げると兵服に身を包んだリヴァイが。その後ろにエルヴィンもいる。
「お疲れ様です」
エマは今までみたいに微笑んだ。
昼間に、リヴァイだけではなくエルヴィンまでわざわざここへ出向いたということは、自分に話があるので間違いないだろう。
「だいぶ戻ったな」
空になった食器を見やり呟くリヴァイに、エマは笑顔で頷く。
「数日前より元気そうで安心した。執務も手伝ってくれてありがとう。多忙なリヴァイを補佐してくれて、助かるよ。ここ、いいかい?」
はいと返事をするとエルヴィンはエマの前に座った。
それほど大きくはない丸テーブルを挟んで、二人は向かい合わせとなる。エマは広げた書類を再び縁に追いやった。
リヴァイは少し離れた長ソファに、気だるそうに腰掛けて視線だけをエルヴィンへ向けている。
エマはリヴァイから視線を戻し、目の前の碧色の双眸を見た。
何を言われるかは、だいたい予想がついている。
頭は冷静だけれど、心は少しずつ締め付けられていった。