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【進撃の巨人】時をかける—【リヴァイ】

第36章 A ray of light




暗い夜道を馬車に揺られる。

夜も更け、何時間も心地よい振動に身を預けていればそれこそ眠ってしまってもおかしくないが、エマは瞼を一度も下ろすことなく夜闇を見つめ続けていた。


「………」

自分の両隣に座る憲兵達もまた、一睡もしていないようだった。

さすがに見張りが寝るわけにはいかないか。でも私がこの憲兵だったら、バレないように眠ってしまうかもしれない。それか退屈で、囚人を挟んで仲間とたわいもない話をするかも。
だって彼らにとって私などどうでも良い存在で、これもただの仕事だ。


頭の中は怖いくらいに冷静だった。
今から処刑されるというのに、取り乱したり自暴自棄になることもない。

現実味がないのだろうか。それさえもよく分からない。

それでも地獄のようなこの一週間の記憶はしっかり刻まれている。
とにかく怖かったし、苦しかったし、吐き気がするほどの嫌悪にも苛まれた。

心も体も、ちゃんと覚えているというのに、あの時の自分と今の自分とはまるで別人のような感覚。
なんと説明したらいいのか、とにかく不思議な気分だった。



「そろそろ到着だ。準備をしろ」

憲兵に言われたけれど、元々身一つで馬車に押し込まれたからなにも準備するものなどない。

真っ黒だった新月の夜が僅かに群青かかって、朝と混ざり合おうとしている。
薄暗い街並みがぼんやりと確認できて、ここが終着点かとやはり頭は冷静なまま。








馬車から降ろされたのは、巨大な門の前。
ここは数ヶ月前……壁外調査へ立つ皆を見送った場所だ。

あの時とは随分見え方が違う。ここは人類の希望へ繋がる扉だと思ってやまなかったのに、今は到底そんな風には思えない。


「おお、美しく施されているじゃないか。」

「これは期待以上……本当に壁外に出すのか?」

「これだけいい娘であれば、都の男たちも満足させてやれそうなのに、勿体ない。」

背中に投げかけられる言葉に振り向くと、小綺麗な格好をした男たちがこちらを見ながら下品な笑みを浮かべていた。

こいつらが、王政と癒着している貴族の奴ら…


「どれ、もう少し顔をよく見せてくれ…」

寄ってきた男に顎を持ち上げられた。
ニヤリと笑うだらしのない口元に、激しい悪寒が走る。


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