第33章 決意の裏側
「へへ、本当そうですよね。確かにあのまま部屋にいたらズーンってした気分のままだったかも。」
リヴァイの心遣いにエマの胸はじんわりと温かくなる。
彼も合同演習が始まり忙しいというのに、自分のことを気にかけてくれて嬉しいという気持ちと、いつまでも心配をかけていてはダメだという気になった。
「リヴァイさん、ありがとうございます。」
星を眺める三白眼を見つめると、その瞳だけがこちらを向き、組んでいた腕を解いてエマの右手を絡めとった。
エマよりひとまわり大きな手のひらはゴツゴツしていて生温くて、けれど優しい温度。
嬉しい…たったこれだけのことなのに、リヴァイの優しさが染み渡るようだ。
エマは指を絡めるようにして繋がれたその手をきゅっと握り返し、人知れず頬を染める。
「そういえば井戸を埋めた人の話、団長から聞きました?」
「あぁ。まったくろくでもねぇことしやがる。」
「ハハハ…でも実際私たちも落ちちゃったし、よく考えたらあんな落とし穴みたいな井戸、結構危ないですよね」
自重気味に笑うエマを見てリヴァイも共感するようにフッと鼻で笑い、けれどその後真顔になってまた空を見上げた。
「だが正直ホッとした部分はある。」
「え?」
「誰かにお前の秘密がバレて嫌がらせしたんじゃないかと考えた。」
「!!うそ…!」
突然声色を変化させたエマにまたリヴァイの視線は注がれた。
「私も、まったく同じこと考えてました!」
「ハッ。なら、お互い嫌な予想が当たらなくて良かったな。」
「ハハ、本当ですね。」
驚いた。まったく同じことを考えていたなんて。
けれどこんな話を笑い飛ばせるのはリヴァイの言う通り予想的中しなかったおかげだ。
「……本当に、誰かの悪戯じゃなくて良かった。」
「まぁお前の身元は調査兵団の一部しか知らねぇし、口も硬い奴らばかりだからそこは安心しろ。」
エマはほんの一瞬、もしも身元がバレたらどうなるかと想像して怖くなってしまったが、そんな一瞬の心情の変化にもリヴァイは敏感に気付き気遣ってくれる。
「そうですよね!」
自分より強い力で握り返された手は、とても男らしくて頼もしい。
エマはすっかり安心して微笑み、満点の星空を見上げた。