第31章 可愛い我儘?
「悪くない」
後悔したエマが前言撤回しようと口を開いたその時だった。
独り言のように呟いたリヴァイはもう真顔ではなく唇は薄ら弧を描いていて、その男らしくも繊細な指でエマの髪を愛おしそうに撫でていた。
エマはもちろん知っている。
リヴァイの“悪くない”は、彼の最大級の褒め言葉だと言うことを。
だからその言葉を聞いて少し安心した。
「エマ。数日前に、来月の二連休は明けておけと言ったのは覚えてるか?」
「?はい」
そういえばそんなこと言われていた。
あの話が今何の関係があるのだろうと小首を傾げていると、リヴァイは“やっぱり自分のことはどうしようもなく鈍感なんだな”と面白そうに笑う。
でもそこまで言われたらさすがの鈍感娘のエマだって、何も思い当たらないわけではなかった。
「!もしかして…」
予定を開けておけって言われた理由って…
「しばらく黙っておこうかと思ってたんだがな。あんなこと言われちゃこっちも早くお前の喜ぶ顔が見たくなっちまった。」
髪を梳かしていた手が頭の上に置かれた。優しくて温かな重み。
「いい場所に連れてってやる。デートだ。」
「!!」
目をまん丸く見開いた後、みるみる頬の筋肉が緩んでいく。
何故か涙まで出そうだ。
嬉しい…嬉しい!!
「ほっ本当に?!あのっ、嬉しすぎて私…え、どうしよう!」
「奇しくも俺もお前と全く同じことを考えてたってわけだ。」
「え…?」
それってまさか、リヴァイさんも…
「思い出とやらを作りに行くぞ。」
「…リヴァイさんっ!!」
その瞬間エマは思いっきりリヴァイに飛びついた。
リヴァイは珍しいエマの行動に驚いたが、その硬い筋肉に覆われた逞しい体で小さな身体をしっかりと受け止めてやる。
「リヴァイさんとデートできるんですか私?!どうしよう、嬉しすぎて心臓爆発しちゃいそうです…!」
「オイオイさすがに爆発されちゃ困る、なんとか耐えろ。」
「リヴァイさん、大好き…!!」
満面の笑みで見上げるエマ。その眩しい笑顔にキツく胸は締め付けられ苦しくなってしまう。
その狂おしいほどに愛らしい唇に、リヴァイはそっと口付けた。