第26章 兵長ご満足プラン ※
「兵長!こっち!こっちですよ!」
「そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえてる。」
10月14日
雲一つ無い秋晴れの空の下、二人の姿は温泉街の大通りにあった。
「へへ、すみません。でも結構並んでるから、売り切れちゃうかもしれないと思って。」
「そんなに美味いのか?“ソフトクリーム”とやらは。」
「はい!しかも今日みたいに少し汗ばむような日にはさらに美味しく食べられるんです!」
ズンズンと先を歩くエマを追って行き着いたのは、一軒の小さな店の前。
そこから伸びている列の最後尾に並ぶエマは、意気揚々といった顔だ。
「兵長、甘い物あまり好きじゃないって言ってたけど、ソフトクリームならきっと気に入ると思うんです。」
「そうか、それは楽しみにしておく。」
「フフフ。兵長の反応が楽しみです。」
いたいけな笑顔を見せるエマに頬が緩む。
が、その周りから何やら視線を感じた。
「なあ、今更だがここで俺をそう呼ぶのはやめておいた方がいいんじゃねぇか?」
「え?……はっ!そ、そうですよね。兵舎の中じゃないのに私ったら…」
“気が付かずに兵長って呼び続けてしまってました”と言い慌てるエマ。
自分は特に気にしないが、冷静に考えればここは兵士が彷徨くような場所じゃないのに、兵長と呼ぶのはおかしいかと思っての一言だ。
「や、やっぱり名前ですよね?」
「肩書きじゃなきゃ名前で呼ぶしかねぇだろ。」
「そうですよね…!リ…ヴァイ、さん?」
「おい…もっと自然に呼べないのか?」
「だって!名前で呼んだのなんほとんどないし…最近はすっかり兵長が定着しちゃってたから…」
たかが一言名前を呼ぶだけでモジモジと恥じらうエマ。もう頬が赤くなってる。
「もう一度やり直しだ。」
「っ……リヴァイさん!」
「ハッ、肩に力はいりまくりだな。まぁいい。」
「やっぱり恥ずかしいです!」
エマは羞恥心からか、バッと両手で顔を覆った。
それを微笑ましく眺めながら、かくいう自分もエマに名前を呼ばれただけでしっかりと鼓動が高鳴ってしまっているのを感じていた。
たったこれだけのことなのにすぐ反応してしまう辺り、俺もエマと似たようなものだなと思いながら、列の先に目をやった。