第4章 混乱
「おはよう、エマ。」
「あっ、おはようございますエルヴィン団長。」
「こんなところで何をしてるんだ?」
「えへへ、中庭の落ち葉拾いをしていたら偶然見つけたので!」
「…おぉ、可憐な花だな。」
まだ朝日が登りきらないうちに談話室の前を通りかかると、ロウソクの炎が揺れてるのに気がついた。
中を確認すると、そこには自分に背中を向けて何やら手を動かしているエマの姿。
彼女は振り返りニッコリ笑顔を見せると、テーブルに置かれた小さなガラス瓶を手に取って見せてくれた。
水を入れた瓶には、薄紫の小さな花が生けてある。
「皆さんの憩いの場に少しでも癒しがあればと思って。」
「素敵な心遣いに感謝するよ。ところで、今日は中庭とここを掃除してくれていたのか?」
「はい!」
エマの行方不明事件から一週間が経った。
彼女はあの事件の翌日から、毎日この時間に自主的に兵舎内の清掃活動をしているようだった。
そして自分も毎日早朝から執務室へ籠るのが癖になっている。
だから時々こうして掃除中の彼女と遭遇し、会話をすることがあったのだ。
「外は寒かっただろう。いつもありがとう。」
「いえ、これくらいしか私に出来ることないですし、やらせてください。」
エマは眉を下げて笑った。
きっと彼女なりに色々と考えているんだろう。
「この花はなんと言うんだ?」
「ビオラです。この花は長い冬にも負けずに、春まで次々と花を咲かせる頑張り屋さんなんですよ。」
「頑張り屋さんか……君にそっくりだな。」
「え?」
「毎日掃除に勉強に、とても頑張っているのを知ってるよ。どうだ?私の部屋で少し茶でも飲んでいかないか?」
「ありがとうございます。いいんですか?エルヴィン団長もお忙しいのに。」
「私から誘ったんだ、問題ないよ。それにもっと君と話がしたいしね。」
エルヴィンは透き通る海を思わせる碧い瞳にエマを写すと、目を細めた。
「はっ、はい。じゃあお言葉に甘えて…」
エマはその瞳に思わず胸が跳ねるのを感じながら答えた。