第22章 制御不能 ※
「エマ…」
呼びかけに反応が無い。
顔を覗き込むと、瞼は硬く閉じられていて微動だにしない。
リヴァイは口元へと顔を近づけた。呼吸はしている。
「気絶しちまったのか…」
どうやら先ほど絶頂に達したときにそのまま気を失ってしまったらしい。
リヴァイはエマの温かな唇へひとつキスを落とすと、崩れたドレスを直し、乱れてしまった髪を丁寧にほどいてやった。
「怖い目に遭わせて悪かった…」
身なりを整えているうちに、頭がスーっと冷静さを取り戻していく。
絡まった髪を指で優しく梳かしながら、リヴァイは小さな声で謝罪した。
結局、自分が懸念していた通りのことが起きてしまった。
ギリギリのところで駆けつけられたからまだ良かったものの、あと少しでも遅かったら…と思うと、背筋に冷たいものが走る。
さっきは薬のせいでそれどころでは無かったが、後で目を覚ました時に恐ろしい体験がフラッシュバックしてしまわないだろうか。
2ヶ月前に憲兵に襲われたときのように…
今回、伯爵に犯される前に救えたことは本当に不幸中の幸いだと思ったが、それでもエマの精神的なダメージが心配だ。
この世界に来てから短期間で二度もこんな糞みたいなことに巻き込ませてしまった。
いつも自分が一番近くにいながら、大事な女一人すら守ってやれないなんて。
「………クソッ…」
何が人類最強だ。
穏やかな顔をして眠るエマを見つめながら、リヴァイは自分の無力さを悔いた。
気絶したエマを抱きかかえ部屋を出ると、廊下にもたれて腕を組むえるエルヴィンの姿があった。
「満足させてやれたみたいだな。」
「…こんな時につまらねぇ冗談はよせ。」
「だが、普段とはまた違ったエマが見られてお前も良かっただろう?」
「は…?」
こんな時に何をボケたことを言っているのかとエルヴィンを見上げると、いつも通りの涼しい顔でリヴァイを見つめている。
「てめぇ…もしかして最初から分かってやがったのか?」
リヴァイはこめかみに薄ら青筋を浮かべながら、碧い瞳をこれでもかと言うほど睨み付けた。