第21章 初体験
銀髪を引っ張り上げ鋭く尖った視線を突き刺せば、半べそをかいて縋るような目がリヴァイへ向けられた。
「お、お願いだ…このことは公にしないでくれ。頼む…」
「それは俺が決めることじゃねぇな。」
「頼む!調査兵団は金に困ってるんだろ?!いくらでも積むから、グラーフ家に泥を塗るような真似だけは…」
「…だそうだが、どうする?エルヴィン。」
「それはできない相談だな。」
入口にもたれかかるエルヴィンは、腕を組んだまま涼しい顔で答えた。
「思い通りにいかなくて残念だったな。
ナイル、こいつの始末は頼んだぞ。」
「…………」
掴んでいた髪をパッと離すと、そのまま重力に従い床に打ち付けられた顔は失意の底に叩き落とされたような表情をしていた。
ナイルとエルヴィンで伯爵を連行した後、リヴァイはソファへ駆け寄りエマを抱き寄せた。
「助けてやれなくてすまなかった…」
「っ……へい、ちょ……はぁっ」
全身が脱力してしまっている体を支えて抱き寄せると、小さな身体がビクビクと震える。
「辛いか?」
問いかけに涙を流しながら頷くエマを見て、リヴァイの胸の奥は激しく締め付けられた。
クソ…もっと早くに気付いてやれれば。
あれだけ注意して見張っていたのに、ダンスが終わる直前に現れた“彼女”によってやむを得ず席を立たなければならなかった。
その隙にこんなことになってしまうなんて。
今更どうにもならないのだけれど、あの時一瞬でも、エマのことより兵士長としての責務を優先させてしまった自分を悔いてしまう。
腕の中でハァハァと苦しそうに息をするエマ。
頬は紅潮し全身が熱を出した時のように熱い。
瞳が酷く潤んで虚ろなのは泣いたことだけが原因じゃないだろう。
痺れ薬と媚薬を同時に飲まされた身体はもう限界かもしれない。
「エマ、少し楽にしてやるから安心しろ。少々場所が気に食わねぇが…そんなに悠長なことも言ってられなさそうだからな。」
リヴァイはエマの体を支えながらソファへ寝かせてやると、その小さな体を全身で包み込むように覆いかぶさった。