第21章 初体験
壁外調査の事後処理も片付き、仕事もだいぶ落ち着きを取り戻した頃。
エマはリヴァイと共に団長室に呼ばれていた。
団長室にはエルヴィンだけでなく、スキンヘッドに髭を生やした年配の男性が一人。
いかにも大物そうなオーラを纏ったその人物にエマは萎縮しそうになりながらも、できるだけ堂々と名乗ってみせる。
「初めまして!エマ・トミイと申します。」
髭の男性は調査兵と同じような格好をしているが、ジャケットの背中には自由の翼ではなく二輪の薔薇が描かれていた。
薔薇は確か…駐屯兵団の紋章だったはず。だけど自分とは全く面識がない。
駐屯兵団のお偉い様が自分に何の用があるのか皆目検討もつかず、エマは緊張した面持ちのままその男性を見つめた。
「この方は駐屯兵団の司令官で、人類領土南部の最高責任者でもある、ピクシス司令だ。」
エルヴィンからの紹介を聞き、益々肩に力が入ってしまう。
駐屯兵団司令官?南部領土最高責任者?
かなりのお偉い様ではないか…
「いかにも。わしがドット・ピクシスだ。よろしく。」
「よろしくお願いします!」
握手を求めて差し出された手を握ると、髭を蓄えた口元が微笑んだ。
「ほほう、この子が噂のリヴァイ兵士長の秘書か。
エルヴィンから君の活躍は聞いておるぞ。調査兵団の居心地はどうじゃ?」
ニコニコと愛想の良さそうな笑顔を見せるピクシス。
自分のことは大体知っているような口振りだった。
柔らかな物言いと笑顔を見て、肩書きの通りのお堅い人ではないうことが分かるとエマの緊張も少し解れた。
「皆さんとても良くしてくださるので、不自由無く勤めさせてもらっています。」
「それは何よりじゃ。
おまいさんの議事録を読ませてもらったが実に素晴らしかった。第三者の視点で読んでもきちんと分かるように纏められておったよ。エルヴィンの言う通りよく出来た秘書のようじゃのう。」
伸ばした髭を指先で弄びながらピクシスは言う。
「そんな、恐縮です。」
エマは控えめに言葉を返したが、初めて出会って、しかもかなりの目上の人に直接褒められるのは素直に嬉しいと思えるのだった。