第16章 旅立ちの日
見上げた空は雲ひとつない快晴。
東の空から登ってしばらくの太陽は大地に暖かな温もりを与え、時折吹く風は一段と春の香りを纏い始めていた。
「そろそろ時間だ!整列しろ!」
号令と共に、馬に跨った兵士たちは轡を引いて位置に着く。
ウォール・ローゼの南に位置するここ、トロスト区の外門から真っ直ぐ街の中まで伸びる隊列。
その隊列の先頭、エルヴィンのすぐ後ろでその時を待つ。
エルヴィンが後ろを向き、もう一度作戦の確認を行った。
俺はその声に耳を傾けながら、時々辺りを見廻していた。
相変わらず民衆は懐疑な目で俺たちを見る。
まぁ中には前向きに送り出してくれる者もいるが、そんなのは変わった大人か純粋なガキだけだ。
今ではそんな目にもすっかり慣れちまった。
「……………」
俺は屍のような目で自分を見上げる民の中から必死に一人の姿を探していた。
昨夜はあの後直ぐに中庭へ行ったのだが、あいつの姿はなかった。
いつもの時間より遅かったし調査の前日だったからあまり期待もしていなかったのだが。
ただ、やはりここを立つ前に顔を見ておきたい。
今日ここへ来ているのは間違い無いから、どこかにいるはずなのだが……
「すみません、すみません!」
人混みを掻き分け、その隙間に体を滑り込ませてやっとたどり着いた。
もう少し早く来ておくべきだった。
やはり団長や兵長がいる先頭の方は集まっている人の数も多い。
今からこの人混みの最前列まで出ることは難しいだろう。
リヴァイ達からは少し遠いが、この開けた高台からなら顔もよく見えるから、ここで見送ろうと思った。
きちんと整列した馬に跨る兵士たちを見て、エマは胸の前で両手を合わせた。
交えた指に力がこもる。
そのまま、エマは隊列の先頭にいるリヴァイの姿を見つめた。
旅立つ前に、一瞬でもいいからその顔をこちらへ向けてはくれないだろうか…
じっと前を見据えるリヴァイの横顔にそう願いながら視線を送る。
……やはりこの距離じゃ気付かれはしないか。
エマは少し肩を落としてして視線を外そうとした。