第13章 板挟みの中で
エルヴィンが去ったのを確認すると、エマは急に身体の力が抜けヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
先程の出来事を思い出すとまた顔中に熱が集まってくる。
口内にはエルヴィンの舌が這い回る感覚が鮮明に残っていて、思い出す度にお腹の奥の方がキュンとしてしまう。
恋仲でもない相手にあんな濃厚なキスをされたのに、憲兵に無理やり犯されそうになった時とは何か違った。
嫌悪感は感じられないどころか、この身体の疼きは一体何だ。
あのまま口付けを続けられたら、自分はどうなってしまっていたのだろうか…
それを考えるのが怖いような、少し興味があるような、不思議な気持ちになっていた。
「おい、どうした?」
「!!
兵長!おっお疲れ様です!」
突如耳に入った声に目線を上げると、目の前にしゃがんで顔をのぞき込むリヴァイの姿があった。
急に現れたリヴァイにエマは慌てて立ち上がり、動揺を誤魔化すように声を張る。
リヴァイはその様子をしゃがんだまま見上げた後、ゆっくりと立ち上がった。
「こんな所に座り込んでどうかしたのか?」
「えと、ですね…」
視線が痛い。そんなに真っ直ぐ見つめないで欲しい…
エマは動揺を隠そうとするが、どうしてもうろたえてしまう。
「俺が目の前に来るまでドアの音にも気配にも気付かなかったな。
何かあったんだろ?」
「いえ…」
エマは小さな声で否定し、リヴァイの肩越しに見える窓へと視線を移した。
窓に差し込む日の光はだいぶ弱まっている。もうすぐ日暮れだ。
そうか、兵長は訓練が終わって戻ってきたんだ…
「よそ見をするな。質問に応えろ。」
何か違うことを考えて必死に平常心を取り戻そうとしていたら、リヴァイに顎を掴まれ、無理やり視線を戻されてしまった。
「な、何もありません!」
いくらリヴァイに聞かれても、エルヴィンについさっきここでキスされたなんて絶対に言えるわけがない。
エマはリヴァイの目を見たまま、語気を強めて言い張ってみせた。