第8章 エルヴィンの憂鬱
「し、心臓が口から飛び出そうなほど…ドキドキしてます…」
「………」
リヴァイは何も喋らない。
こんな感想じゃ満足できないと言うことなのだろうか?
…………
…………
ええい!もうどうなってもいい!全部喋ってしまえ!!
エマはリヴァイの胸の中で目をぎゅっと瞑り半ば躍起になると、勇気を出して自分の率直な気持ちを言葉にした。
「暖かい、です。その、体温だけじゃなくて気持ちも。ほっとするというか…やっぱり、居心地が良いし、安心すると思ってしまいました……」
「…悪くないな。」
リヴァイは一言だけそう言うと、ゆっくりとエマの身体を解放した。
どんな表情をしていたかは見えなかったが、相変わらずいつもの抑揚のない声のトーンだ。
そしてエマはというと、顔から火が出そうなほどの恥ずかしさで、心臓はこのまま破裂するんじゃと思うくらい激しく拍動していた。
こんな恥ずかしい姿を間近で見られたらもう自分は倒れてしまうかもしれない。
エマがなかなか顔を上げられずにいると、黙っていたリヴァイが口を開いた。
「安心しろ、こんな暗闇じゃお前の顔色まではわかんねぇよ。」
「……はい。」
もうそう言われた時点で、自身の顔が真っ赤に染め上がっているのを見破られた気分だったが、エマはもう何も言い返せなかった。
「寒いな…戻るか。」
「…そう、ですね。そろそろ戻らないと風邪ひいちゃいますね。」
エマはそんな中でも必死に自分を落ち着かせながら、立ち上がったリヴァイの後について行った。
「リヴァイ、やはりお前もか。」
人気のない二階の廊下で、エルヴィンは小さく声を漏らした。
エルヴィンは中庭での一部始終を見てしまったのだ。
執務室から自室に帰る途中たまたま廊下の窓から下を覗いたら、見えてしまったのである。
エルヴィンは心の中が悶々とするのを感じながらも、二人から目線を外し、ゆっくりと自室へ歩みを進めた。