第29章 なんたる失態
オイラは応接室から……翔ちゃんは病室《個室》から……
頑張った翔ちゃん……可哀想に……泣き腫らした真っ赤な瞳
智「翔ちゃん逢ってくれてありがとう」
微かにコクンと頷いた翔ちゃん
あれ? オイラさ初めてみんなの部屋で
『初めまして。凄く寂しい曲だね』
って言った時……
2回目に
『犬の絵を描いてみて下さいませんか?』
『はい。描けたよ。ワンちゃん』
『上手ね』
翔ちゃんと初めて会話を交わした時も……
そして紙芝居の前にリモートで画面越しにさ……翔ちゃんが前髪をクイックイッって引っ張ってて
『翔ちゃん? 何してんの?』
『前髪を切りすぎちゃったの』
って話た時もさ……
智「翔ちゃん? オイラさ名前を伝えたっけ?」
プルプルってちっちゃく首を横に振った翔ちゃん
智「マジか! なんたる失態……」
思わず頭を抱えてそう呟くと
『うふふ』
って声がしてさ顔を挙げると
《面白いですね、オオノサトシ さん》
そう書いた紙をオイラに見せてた翔ちゃん
智「ぇ? 何で名前?」
翔『『彼は、オオノサトシさんだよ』って相葉先生が……』
文字がカタカナなのは、音だけで聞いたから漢字で何と書くのか分からないから……
だって……
なるほど……確かにね、オイラは翔ちゃんについての資料に目を通した時に、漢字で《櫻井翔》って認識したんだもんね……
オイラは紙に
《《大野智》です》
って書いて翔ちゃんに見せてさ
翔『大野智さん。お名前覚えました』
って
お茶目な翔ちゃん可愛い過ぎる……
智「翔ちゃんに俺の職業伝えてなかったよね?」
翔『相葉先生のお友達だって聞いてます』
相葉ちゃんは、オイラから伝えたいよね? って。黙っててくれたんだよね? 優しいから……
智「もう、色んな事がなんたる失態だよ」
自嘲気味に言って翔ちゃんを見つめると、今度は微笑む事なく ジっとオイラの事を見つめていた翔ちゃん……
智「オイラは、ライターの仕事をしています。相葉ちゃ……相葉先生よりお話を頂きました。お父さんの松本さん、二宮くん、るなちゃんの共通の思い。介護施設で起きた事をうやむやにしたく無いという思いに。翔ちゃんの思いに……協力したいと思いました」