第21章 温泉に行こう【団長ハンジさん・R18】
「団長さんとなまえさんは同じお部屋にしておきましたのでどうぞごゆっくり寛がれてくださいね。」
「えっ、ちょっとあのキヨミさん!?」
「ほほほ、全く微笑ましいことでございます。」
キヨミさんは上品に口に手を当て悪戯っ子の様に微笑むと、私とハンジさんを部屋に押し込み廊下の闇へと消えて行った。
ここはレべリオにあるアズマビト御用達の宿屋だという。
壁の外の世界は想像していたより開けているようで、観光客用にヒィズル国をモチーフにしているというこの宿はなんと寝具はベッドもなく床に布団を敷いただけで、何かの草で編まれているらしい床からはどこか独特な、しかし不快ではない匂いがしている。
何より、キヨミさん曰く部屋には”素敵なお風呂”がついているらしい。
ヒィズルは入浴の文化が盛んなようで、露天風呂の浴室はそれはもう宿泊客からの評判もいいのだとか。
「ですから、どうか二人で楽しまれてください。」と満面の笑みで言われたのはつい先ほどのことで。
キヨミさんも先の見えない我々の旅にただ面白い玩具を見つけた、という感覚なのだろう。
完全に反応を見て楽しまれていると感じたのはハンジさんも同じようで、"畳"と呼ばれる床の上に胡坐をかくと溜息を溢した。
「こんな時に寛いでいていいとは思わないけど・・・」
そう呟くとまた溜息を一つ。
「誰かが私たちのことをキヨミさんに喋ったんですかね。」
「大方予想はつくけど、喋ったというより口が滑っただけだろうね。」
会話の中でそんなことを溢してしまいそうなのはサシャかコニーか、もしかしたらキヨミさんと話す機会の多いミカサかもしれない。
何より、ハンジさんは気乗りしないようで団長になってからは以前より刻まれることの多くなった眉間の皺を今も薄っすらと刻んでいる。
しかし、折角キヨミさんが面白半分といえど用意してくれた休息の機会だ。
今が大変な状況であれ、今日だけでもハンジさんにはゆっくり休んでもらいたい。
私はハンジさんの隣に座ると膝にそっと手を置いた。
もう片方の手を伸ばすとそのまま彼女の額を小突いた。
「いたっ」
突然の痛みに驚いたハンジさんは少し仰け反った。
「眉間の皺、癖になっちゃいますよ?」