第20章 気持ちに名前を付けるなら【分隊長ハンジさん】
次に目覚めた時は何かに揺られているようだった。
少しでも体を動かすと全身に強烈な痛みが走る。
骨を何本かやってしまったらしい。
「・・・・なまえ?」
聞きなれた柔らかい声が私の名前を呼んでいる。
重い瞼を持ち上げると、白く光に反射したゴーグルを額にのせた澄んだ赤茶の瞳が私を捉えている。
「なまえ・・・・、なまえ!」
その瞳が細められたかと思うとゆっくり近づいてくる。
「良かったよ、無事で。」
温かい皮膚の厚い両手で頬を包まれると、安堵の息が皮膚に掛る。
夢でもいいと思えるくらい幸福なことで、
頬に触れる手の感覚や温かさが現実だと伝えてくれる。
どうやら私はまだ生きているらしい。
また、ハンジさんに会えた。
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なまえが生きていた。
リヴァイに言われ、森の中でなまえを回収したときは心臓の音にひどく安堵し、少し動かすだけで深く刻まれる眉間の皺に心臓が締め付けられるようだった。
木に打ち付けられたであろう体勢と、一度の戦闘にしては減っているガスに最後の力を振り絞って生きていてくれたのだと思った。
今は一命を取りとめた彼女が、目の前で意識を取り戻している。
なまえ以外の特別作戦班は皆死んだ。
彼女だってそちら側へ行ってしまってもおかしくはなかった。
もう離したくない。
もう二度と私の眼の届かないところへは。
やっとあの時のもやもやした気持ちの正体が分かった。
こんな状況になるまで気づけないなんて、私はこの世で一番馬鹿だけど。
君の笑顔も怒った顔も、思いやりも全て私だけに向けられて欲しいんだ。
君にとっての特別になりたいしその証が欲しい。
なまえの手をそっと握ると力を込めた。
どうか、この手の中から存在がすり抜けてしまわぬように。
「なまえ、ずっと好きだった。」
もう二度と傍から離したくない。
この気持ちに名前を付けるなら、きっと ”恋” だと思う。