第19章 celebrate you!【団長ハンジさん】
今までなら気にも留めない何気ない風景。
狭い視界の端に捉えた軒先に並ぶ色鮮やかなそれらにくぎ付けとなった。
なまえ、花は好きかな。
代り映えしない兵舎の献立で水曜日に出るスープが好きだとか、
毎日食べるパンは硬めの方が好みだとか、
大っぴらには言わないけど女の子らしく甘いものが好きで、
エルヴィンが団長だったころは贈り物の焼き菓子を分けてもらえるのをひそかに楽しみにしていたとか、
眠るときは自然と右側を下にして寝るとか、
立体起動装置を操ることも少なくなった今、
時折物足りなそうにブレードの代わりに何もない宙を掴んでいるとか、
君のことは結構知ってるはずなのに、
花が好きかなんて今更。
可笑しくなって一人笑うとたまにはこういう格好つけたプレゼントを渡してみるのもいいかもしれないと花屋へ足を進めた。
「お花、お好きなんですか?」
店先に入ると人当たりのよさそうな店員の女の子が声をかけてくれる。
花にはあまり詳しくないし、この子に見繕ってもらおうかな。
「贈り物なんだけど、君くらいの女の子に。」
「そうなんですね!素敵!
記念日か何かですか?」
「いや…特に何でもないんだけど」
「ええ!何でもないのにお花をプレゼントしてくれるなんて兵士さんの彼女さんは幸せ者ですよ~」
“彼女”なんて一言も言っていないけど、この子の中で恋人に花を贈る素敵な彼氏の図が出来上がっているらしい。
瞳をキラキラさせながらいくつか手に取り、手際よく簡易的なブーケを作っていく。
「こんな感じで…可愛らしくていいかなと思うんですけど……ちょっと私の好みですが!」
照れくさそうに笑う彼女の手には淡い色使いが綺麗な小振りの花束。
たしかに、ちょっとした贈り物には大げさすぎることもなく丁度いいサイズで。
「へえ、上手だね。君に頼んで正解だった。
君の好みってことは君が貰いたいブーケなのかな?」
私の言葉に彼女は可愛らしい瞳を見開くと少しだけ頬を染めて照れくさそうに笑った。
「実はそうなんです……。
気に入らなさそうであれば彼女さんのお好きな色で作り直しますよ。」
「いや、十分だよ。
あの子も好きだと思うしきっと喜ぶ。」
感謝を伝えると花屋らしい満開の笑顔を返してくれた。