第18章 ベーシストの憂鬱【No Nameハンジさん・R15】
鼻先にチュッと音を立てて唇が触れると、
熱を帯びたなまえの瞳と視線が絡み合う。
「朝からこんなことした、責任とってね」
「噛まれて興奮した?」
私の問いかけには無言で答えると、唇が近づいてくる。
軽く触れるだけのじゃれ合いを続けていると薄らと唇が開いてきたがその先は制した。
不機嫌な顔が目に入ってくる。
「ミケの、吸ったばっかりだから嫌だよ」
「言い方に悪意を感じる」
「よく思ってないからね」
そのまま彼女の首元にキスをひとつ。
「ん……」
くすぐったそうに悩ましい声を上げる姿に
指を絡めると耳元で囁いた。
「なまえの匂いしか感じられないくらい君を味わうから」
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あの後は散々なまえを苛めて跡をつけて、
気づけばミケ愛用の煙草の臭いも汗とともに流れてしまっていた。
ちょっとやりすぎたかもしれないと思いながらも
部屋に投げられたままの煙草を見ると、やっぱり間違ってなかったと思えてきて。
今日の練習でミケに突き返して
小言のひとつでも言ってやろうと思った。
だが、スタジオに入って開口一番。
「……なまえの臭いがキツイな。」
張本人は勝手に人の匂いを嗅ぐと楽しそうに鼻で笑っていた。
軽く睨みつけて煙草を突き返すと一部を悟ったようで。
さらに面白そうに顔を歪めるものだから、
カチンときて言ってやった。
「なまえに煙草与えないで」
「可哀想に、彼女が嫉妬深いと大変だ」
「ミケ!!」
かなり怒っているように見えるだろうし実際怒っている。
その姿を見たミケは苦笑して、バツが悪そうに小さな包みを渡してきた。
「何……、これ」
「なまえに頼まれていたものだ。
線香なんだが、俺もナナバもよく使っていてな。
たまたまその残り香をなまえが気に入ったらしい」
「な………っ」
渡してやらないのも可哀想だろうと続けるミケの言葉も頭に入ってこない。
匂いの好みが合いすぎている。
「煙草の次は線香……」
「ご愁傷様、ハンジ」
まだしばらくこの問題に悩みそうだと
頭を抱える人気バンドのベーシストだった。