第20章 幸せの訪問
「お疲れ~。」
「「「「お疲れー」」」」
「ね、ちょっと」
「はい、なんでしょう」
「にの、次なんの仕事?」
「今日はもう上がりです。」
「あ、そうなの?」
「はい。入ってたんですけど、なくなって。久しぶりに早く帰れるって嬉しそうにしてましたよ」
「ははっ、そっか。ありがと」
「はい。じゃあ、送ってきます!お疲れ様でした!」
「お疲れ様~」
レギュラー番組収録のあと
一番に楽屋を出る二宮。
最近では次の仕事先に
急いでいたのだが、
マネージャーによると
今日はもう帰るだけだ。
「お疲れ様でした。よく寝て下さいね」
「うん、ありがと。お疲れ」
深夜、くたくたになって帰宅し
シャワーを浴びて寝るだけに
なってしまっている自宅。
久しぶりにまだ日付が変わる前に
自分の家に足を踏み入れた。
「…あれ…」
もう冬だ。寒いなぁと思いつつ
睡魔に負けて先延ばしにしていた
電気ストーブが表に出ていた。
誰が出したのかは容易に想像がつく。
この部屋に入れるのは
自分ともう一人…。
だが、今日は来ていないはず。
自分は朝、この部屋から出勤した。
いつ出したのだろうか…。
自分が何も見えてなかったことに
我ながら驚く二宮だった。
相変わらず、ミネラルウォーターと
缶ビールしか入っていない冷蔵庫。
冷えた缶ビールを取り出し
ソファーに座り、テレビを付ける。
この、いつもの行動も久しぶりだ。
早いと言っても日付が変わる
寸前のこの時間。ゆっくりしてると
眠ってしまいそうになる。
この時期、ちゃんとストーブを
付けているとはいえ、
ソファーでうたた寝はご法度だ。
シャワーを浴びて、
もう寝ようかとソファーから
立ち上がろうとしたときだった。
ガチャ…
ドアの鍵が開く音がした。
そしてドアが開き…閉まる。
二宮のいる場所から玄関は見えない。
二宮はソファーで暫し待っていたが
リビングの扉はなかなか開かない。
「…どしたの?」
「この靴、脱ぎにくいんだよ」
「…ふーん…」
「…っし!脱げたー…ただいま」
「…ん、お帰り」
あまりにも当たり前のように
ただいま、という相手に
つられて、お帰りと返す二宮。
ここは紛れも無く二宮の家なのだが。
なんで来たの?という意味の
どうしたの?だったのだが
見事に流されてしまったようだ。