第3章 真央霊術院編
「貴方が迅速に救援要請してくれたから、こうして私は生きてるの。もっと遅かったら間に合わなくてそれこそ死んでたかもしれない。だから修兵はちゃんと私を守ってくれたんだよ。」
「………違うんだ。」
「…え?しゅうへ……わッ!」
聞き返そうとした刹那、彼の腕がゆうりの手首を捉え強引に引き寄せた。自分より幾分身長の高い檜佐木の腕の中にすっぽりと収まる。初めて抱き締められた事に驚き、ゆうりが顔を上げると檜佐木は泣きそうな位顔を歪めた。
「俺が、お前を守りたかったんだよ…!!」
「修兵……。」
「誰かに頼るんじゃなくて自分でゆうりも、他の奴らを守りたかった。けど蟹沢が狙われた時も、もう一体虚が湧いてきた時も俺は何も出来なかった。あの1年達が戻って来なかったら死んでたかもしれねぇ。それが情けなくて、悔しい…。」
悲痛な表情と声にゆうりも眉を下げる。彼も私も同じ気持ちだったのだ。本当は、自分の力で誰かを守りたい。けれどそれはまだ力の無い己には難しい、そんなジレンマが辛いのだ。ゆうりは両腕を彼の背中に回し優しく抱き締め、軽くぽんぽんと叩く。
「…私も同じだよ。自分で皆を守りたかった。藍染隊長達が来なかったら、死んでたかもって考えると悔しいし怖い。だから…これからもっと一緒に強くなろう。」
「ゆうり…。」
彼女の優しい言葉に、スっと心の鉛が取れたかのように感じた。檜佐木は瞳を細めると、抱き締める腕を若干緩めゆうりの目を見詰める。
「…もし、俺がお前より強くなったら……。」
お前の事を守れるくらい強くなったら。俺と付き合ってくれるか?
そんなセリフが喉に突っ掛かり、言葉に出来ない。言った所でゆうりはきっと困った顔で笑うだろう。それならば、彼女より実際強くなってから口に出そう。
檜佐木は瞼を降ろし呼吸を整えるとゆっくり目を開き笑い掛けた。
「…なんでもねェ。ゆうりが生きてて良かったよ。」
「私も、修兵が生きてて良かった。」
そう言って笑い合う。今はまだこれだけでいい。俺のものでなくとも、ゆうりの優しい笑顔が向けられるのであればそれで満足しよう。
それから約一年後。更に鍛錬を詰み真央霊術院を卒業したゆうり達はそれぞれの道を歩み始めるのだった。
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