第12章 五番隊隊長就任編
まさか名前を問われると思っていなかった男は怪訝そうに眉を顰めた。見た目は多分、ゆうりである。出会った頃より余程幼いが、声が、霊圧が彼女のもので間違いない。だが、自分の事が分からないらしい。一体何が起こっているのか。返答に困っていたら、徐に隊長羽織がぎゅっと握られる。
「私、ゆうり!大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになりたい!!」
「は……?」
「だめ…?」
しゅんと肩を落とし、今にも泣きそうなほど瞳に涙を浮かべる少女に戸惑った。何故小さな彼女に求婚をされているのだろう。…本気か?
男は膝を折り、ゆうりと視線の高さをなるべく合わせた。少女はキラキラとした瞳でこちらを見詰めてくる。何の穢れも淀みも知らなさそうな純朴な瞳が愛らしかった。
「……私は朽木白哉だ。私の妻になりたいのか?」
「うんっ!だって、王子様みたいにかっこいいんだもん。」
「そうか。」
破顔するゆうりに白哉は無表情のまま一言返す。この言葉が、元の姿の時に聞ければどれほど嬉しい事か。
彼女は白哉が自分の目線まで低くなかったのをいい事に彼の首へ腕を回し抱き着いた。子供を持たぬ故どうしていいか戸惑ったが、ややぎこちない動きで小さな少女の身体を抱き上げた。おおかた、十二番隊の仕業だろう。白哉は浅く溜息を吐き出し小さな頭を優しく撫でた。
「…今の兄では余りにも幼過ぎる。大きく………いや、元の姿に戻った時、同じ言葉を聞かせてくれ。」
「うー…他の女の子好きになっちゃダメだよ!」
「それを兄が言うのか。」
初めて顔を合わせた日よりもっと幼ければ、互いが望む未来が訪れていたのだろうか。そんなたらればな事を考えては己らしからぬ発想に自嘲した。
気持ちを切りかえ、早々に彼女の姿を戻させようと踵を返した刹那、目の前に呼吸を切らした日番谷が現れる。彼はやや表情を強ばらせ2人を見やった。
「やっと…追いついた…!」
「あっ、見つかっちゃった!びゃっくん、逃げて!!」
「その呼び方は辞めろ。」
「こんな所まで来やがって…もう逃がさねぇぞ…。」
額から流れる汗を手の甲で拭う。ふっ、と短く息を吐き日番谷は白哉に抱かれるゆうりへ手を伸ばした。…が、その手は彼女へ届かず消えてしまう。
「な…っ!?」
「何故ゆうりを狙う、日番谷隊長。」