第10章 尸魂界突入編
暫くして、戦いは終わったらしい。猪集団は来た時と同じ様に猪に跨り帰っていく。残った一護の苛立った叫び声が木霊した。丁度、腕の接着を完全に終えたゆうりが彼等の元に近寄る。
「…なんで一護、兕丹坊と戦ってた時よりボロボロになってるの?」
「あンの野郎、喧嘩ふっかけといて決着もつけずに勝手に帰りやがった!!」
「なんというか…災難だったな、黒崎。」
「えっと…ち、治療しようか…?」
「次会った時はぶん殴ってやる!!」
怒りを露わにするも、その対象はもう居ない。ゆうりは憤る彼を見てこういう熱くなりやすい所はまだ子供だと思った。
翌日、早朝に目を覚ました彼らは志波空鶴の元を訪れる為準備を進めていた。各々が支度を終え、もう出れるという所、一護だけはどっかりとその場で胡座をかいている。
「はぁ!?行かない!?」
「おう!俺はここであのヤローを待つ!」
「な…何言ってるんだ君は!?ふざけてないで来い!」
「嫌だ!アイツに逃げたと思われるだろ!!」
「思われろ!!」
石田は一護の足を思い切り引っ張り、一護は囲炉裏の枠に掴まり抵抗を見せる。ゆうりは深々と溜息を吐き捨て一護の目の前にしゃがみ込んだ。
「…………一護。」
「な、何だよ…!」
「ここで昨日の男を待ってる間にルキアが死んだらどうするの?」
「…!!」
「なんで皆が危険を犯してまで尸魂界に来てくれてると思ってるの?ルキアを救うためだよね。まさか、決着つけたいなんて至極くだらない理由でここに残るなんて、言わないよね?」
「あ…えっと……。」
「もし昨日の男が今日現れなかったら、待っていた一日分丸々無駄になる事を、わかってて言ってるんだよね?ねぇ、一護。」
ゆうりの表情は至って笑顔に見える。が、目が一切笑っていない。のしかかる様な重い霊圧に、嫌な汗が吹き出る。怒っているのは一目瞭然だった。
「ス…スミマセ……オンヌギャアアアアアアア!!!!」
「頭に血が昇って当初の目的すらも失念したか、莫迦者め!」
「夜一さん。」
謝罪より先に四楓院の鋭い爪が一護の顔に三本の傷を残した。鋭く尖ったそれで引っ掻かれればさぞ痛いだろう。一護は涙ながらに痕を手で抑える。
「此奴の言う通りじゃ。この旅にはルキアの命が掛かっておる事!よもや忘れたわけではあるまいな!」