第9章 現世編(後編)
「せ…生前まで戻すって…まるでカミサマみたいっスね。」
「ただ私の力は現世と尸魂界の魂魄量のバランスを乱してしまう恐れが有るからあんまり使えないんだけどね。」
「確かに、そんな事してしまえば本来還る筈の魂が留まることになってしまいますからね。無闇に使わないのは正解っス。」
浦原は床に手をつき緩慢な動作で立ち上がるとキョトンとした顔で座るゆうりの頭をポンポンと軽く撫でてから部屋の扉へ向かう。
「聞きたい話も聞けたんで、寝ましょうか。明日の夜、旅立ちです。ゆっくり休んで下さい。」
「待って!」
己の研究室へ戻ろうと踵を返した浦原の羽織りを咄嗟に掴む。引き留められると思っていなかった彼は足を止め彼女を見下ろすと、ゆうりは満面の笑みを見せた。
「一緒に寝ましょう。」
「……そんな笑顔で誘われて断るなんて出来ませんねぇ。」
「最後の夜だもの。一緒に居たいじゃない。」
「最後にしないで下さい。帰って来るのを待ってますから。」
「ふふ、ありがとう。」
押し入れから布団を1組取り出し敷くと先にゆうりが潜り込み電気を消した後隣に浦原が向かい合う形で寝転んだ。互いの体温が布団の中で溶け合い心地よい暖かさに意識が微睡む。
「おやすみなさい、ゆうり。」
「おやすみ、喜助。」
行き場無く彷徨わせた手が彼の手に触れると躊躇いなく指を絡めて握りこまれる。隻手を背中へ回せば浦原の手が腰へ回され、ぴったりと寄り添い酷く優しい温もりに包まれる中、深い眠りへと落ちていく。
静かな寝息を立て始めたゆうりを浦原は見詰めた。多分、あの斬魄刀はまだ何かを隠している。そしてもしも彼女の卍解能力を知られればいよいよ藍染はあの手この手を使い彼女を連れ去ろうとするだろう。
「……どうか、無事で帰って来て下さい。」
あわよくば、もう一度此処へ。
自然と腰に回した腕に力が籠る。浦原は眠るゆうり額へひっそりと唇を寄せてからゆっくり瞼を降ろし、襲い来る睡魔に身を委ねるのだった。
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